世の中には不思議な車両がたくさんあります。その中のひとつが2021年11月に登場したJR西日本のDEC741です。この車両の屋根上には無数のカメラを搭載しています。一体、どんな車両でしょうか。京都鉄道博物館に行き、実車を見学することにしました。
電気設備や線路設備も検査できる万能型
DEC741は総合検測車という位置づけ。ようするに「走る鉄道のお医者さん」です。検測車自体は国鉄時代から存在しましたが、検査対象は主にパンタグラフへ給電する接触電線(トロリ線)で、電柱や信号機といった電気設備や線路設備の検査は人力に頼っていました。
DEC741はトロリ線だけでなく電気設備や線路設備も検査対象とする万能型の検測車です。先頭車は四角い顔をしていますが、車両限界を突破しないように下部を少し絞っています。車体色は先輩検束車と似た紺色と黄色の組み合わせです。
側面には可愛らしいイラストが描かれています。JR東日本の検測車の側面にはクールなサインがありますが、このあたりはJR各社の個性が出ているように感じます。
カメラの画像はAIを用いて自動的に選別
DEC741といえば何といっても屋根上のカメラです。同車には2種類の検束装置「電気設備撮像装置」と「電気設備測定装置」があります。「電気設備撮像装置」では屋根上と側方用に50台のカメラを設置しています。
「DEC741-1」の屋根上を見学すると、たくさんのカメラに驚きました。一見、乱雑に置かれているように見えますが、広範囲に様々な角度で撮影できるように工夫されているとのこと。沿線にある電柱や信号機などの設備を撮影します。また特殊な照明により、トンネルや夜間での撮影にも対応します。
「DEC741-101」にあるカメラは「電気設備測定装置」に属し、架線だけでなく架線周辺も撮影します。
編成の真ん中にはパンタグラフがありますが、これは通常の電車のような集電を目的としたものではなく、検測用のパンタグラフです。トロリ線の摩耗具合をチェックします。
カメラで得られた画像はAIを用いて自動的に選別し、状態の良し悪しを判定します。JR西日本では「撮像装置」「測定装置」そして「AI画像解析装置」を総称して「電気設備診断システム」と呼んでいます。
九州まで足を伸ばすDEC741
DEC741はディーゼルカーですが、仕組みが従来車とは異なります。従来のディーゼルカーはエンジンを動力源とし、エンジンの回転力を回転軸や変速機を通じて車輪に伝える方式を採用しています。
一方、DEC741はエンジンを発電機に直結させ、発電した電力を用いてモーターを動かして車輪を回転させます。つまり、仕組み自体は電車とよく似ています。この方式を採用することにより回転軸やベルトなど落下の恐れがある部品を削減することができ、安全性とメンテナンスが向上しました。
このようにDEC741はカメラ以外にも、様々な知恵が詰まった検測車です。活躍場所は主にJR西日本管区ですが、JR四国やJR九州、西日本の第三セクター鉄道線にも顔を出します。ダイヤは非公表ですから、見つけたら「ラッキー」ですね。