「面白そうだから、行く」 独立独歩の元DeNA久保康友、2023年はドイツ・ブンデスリーガで現役続行

あの人~ネクストステージ

黒川 裕生 黒川 裕生

久保康友投手、ドイツで現役続行—。

そのニュースが報じられたのは数日前のクリスマスのことだ。「松坂世代最後の大物」と呼ばれ、千葉ロッテマリーンズ、阪神タイガース、横浜DeNAベイスターズの3球団で通算97勝を挙げた現在42歳の久保。2017年を最後に日本のプロ野球界を離れてからは、「世界遺産を見て回る」ことを人生の最優先課題に掲げ、アメリカやメキシコでプレーを続けてきた。しかし2020年からは所属先を失い、とうとう“無職”に。2年前のインタビューでは「いずれコロナ禍が落ち着いたらまた海外で投げたい(そして世界遺産を見に行きたい)」と語っていた久保に、あらためて取材を申し込んだ。

丸2年もの間「ブラブラしていた」久保だが、2022年は関西独立リーグの「兵庫ブレイバーズ」でプレー。翌年の海外行きを視野に、自ら入団を申し出たという。無給だったが、まだ現役時代の蓄えがあるという久保は、全く意に介さない。

「海外で投げるために自分のことをやるだけなので、チームのレベルやカラー、待遇は僕には関係ありません。兵庫ブレイバーズを選んだのも、球団の本拠地(三田市)が自宅から近いのが理由。平日の試合には出ていましたが、土日や子供の夏休みなどは家族と過ごすことを優先しました。むしろシーズンオフになった今の方がちゃんとトレーニングしているかもしれないですね」

42歳。年齢や体力面での不安はないのだろうか。

「確かにコロナ禍で2年ほど空いていて、トレーニングにもあまり力を入れていませんでした。もちろん若い頃のピーク時に比べたら全然です。でも年齢を重ねてきた分、マイナスになった体力は経験と技術でカバーできます。ヨーロッパなら、まだまだ投げられますよ」

野球がマイナースポーツの国

さて、ドイツである。ドイツの野球ブンデスリーガには北地区と南地区があり、久保が所属することになったハンブルク・スティーラーズは、北地区のチーム。久保が言うには、南地区の方が野球が盛んで、強いチームも多いらしいのだが、そもそもドイツ自体にあまり野球のイメージがない。日本野球機構(NPB)出身の選手がドイツでプレーするのは、おそらく久保が初めてなのではないか。

「ドイツでは野球はめちゃくちゃマイナー競技で、『なんでそんなスポーツやってんの?』という目で見られると思います。選手はみんな他の仕事をしているので、練習は仕事終わりのナイターで、試合は週末だけ。そういう意味では、プロというよりセミプロなのかな? 僕も契約する際に『(野球以外の)仕事を紹介するよ』と言われたくらい。ドイツではまだ、野球の給料だけでは生活できないのが現実です」

「僕は外国人枠の主力選手として行くのですが、それでも給料はほとんど出ません。生活する場所(風呂トイレ共同のシェアハウス)と食事、日本とドイツの往復チケットは提供してもらえます。僕はそれで十分ですが、NPB出身者は今後も行かないでしょうね。家族を養うために、給料をある程度もらえるところでやりたいと思うのが普通なので、ドイツが選択肢に入ることはないと思います」

面白そうやから、行く

それでも久保が行くのは、やはり「広い世界を見たい」という強い思いがあるからだ。野球はその夢を叶えるための“ツール”だと公言し、「プレーするのはどこの国でもいい」と言い切る。

「野球にはもちろん感謝していますが、好きかと問われればちょっと違うような気もします。横浜の熱心なファンである小6の長男と違い、僕はプロ野球を見ることにも全く興味がないですし。ただ、技術的なことを追究するのは楽しくて、トレーニングも全く苦になりません。野球そのものというより、シンプルに『練習して上達すること』が好きなんです。そういう意味では、僕にとっては野球ではなくてもよかったのかもしれないですね」

「ファンを喜ばせたいという気持ちも、元々あまり持っていないんです。もちろん、自分が一生懸命プレーすることでチームが勝ち、みんなが喜べば嬉しい。でもこれが逆に、誰かを喜ばせるためにプレーしていると、モチベーションが自分の中にないので、応援されなくなったときに空っぽになってしまう。それでダメになっていく選手をNPBではたくさん見てきました。プロなのに波があるのは良くないんじゃないかなと僕は思っていましたし、だからこそモチベーションは自分の中にしっかり持ってプレーしてきたつもりです」

「何のためにドイツまで行くのか」と久保はよく訊ねられるという。だが、そんな質問をされること自体が久保にはピンと来ないそうだ。

「面白そうやから、ですよ。僕は自分が興味を持ったことでしか動きません」

「自分の信じる道を選んで歩き続けているうちに、気づいたら周りには誰もいなくなっていました。でも今は時代が変わったのか、僕みたいな生き方も認められているように感じます。特に若い世代には、ある種のロールモデルと思ってもらえるのでは。参考になるかどうかはわかりませんけど」

野球がマイナースポーツである国でプレーするのは、久保にとっても初めての経験。野球選手の社会的ポジションもわからないし、現地でどんな扱いを受けるかもわからない。でも久保は、それが楽しみなのだという。

久保の渡独予定は、2023年3月—。

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