「ちょっと泣けるお話」という言葉とともに、かつお節の目利きがいる日本で最後の老舗鰹節問屋「タイコウ」に勤務するかつお節コーディネーター、大塚麻衣子(@AJIMAI3)さんがTwitterに投稿した、一本の注文電話のエピソードが話題です。
14万以上のいいねがついたそのツイートに続き、ツリー形式で連投された一連の投稿について、大塚麻衣子さんにお話を聞きました。(※一連の投稿の掲載については「お客様」のご承諾済みです)
以下、大塚さんが投稿したツイートです。
ひょっとして「かつお節」が違う…?
①会社の電話が鳴った。お名前が表示された。名前が表示されるのは古くからのお客様。電話に出ると、若くはない女性の声。かつお節を注文したいとのことで、話を伺うと、ご本人は初めてだとおっしゃる。ところが番号は表示されたままのものなので、疑問に思いおたずねしてみる。
②「恐れ入ります、こちらの番号はすでに登録がされている番号ですが、お間違いありませんか?」『え?…それって〇〇〇〇で登録されているんですか?』「あ、はい。そうです」『…それ、父の名前です』「あ、なるほど!お久しぶりのご注文でしたので、念のため確認させていただきました!」
③『こちらのかつお節だったんですね…』「はい、丁度3年前の2019年12月7日に、前回ご注文をいただいておりました」しばらく女性が無言になって、その後、静かに鼻をすする音が聞こえて驚いた。声をかけてしばらく泣かれた後、落ち着かれるとポツポツとお話された。
④2020年の夏頃にお母様が急逝されたそう。毎年実家に家族親戚が揃って、新年を祝われていたそうで、その時にはお母様が10リットル近い出汁を毎回用意しておいて、お蕎麦やお雑煮を作られていたのです。それが美味しくて、毎年家族親戚一同孫たちの、いちばんの楽しみだったとか。
⑤ところが、お母様が急逝されてから、集まりのお料理を電話主様と妹さんで、残っていたレシピをもとにお雑煮やそばつゆを作ってみたところ、まったく味が違う。いろいろ試してみて、ひょっとしてかつお節が違うんじゃないか?と思いいたられて、いろいろ試されていたそう。
⑥そこで、兄嫁さんにうちのことを聞いたらしく、試してみようと思って、電話されたところ、大当たりで…驚きと喜びで、涙ぐまれたのです。毎年、年末に血合い抜きと厚削りをご注文いただいていたお客様。これは、ハレノヒにみんなに美味しいものを食べさせたいと思われてのご注文でした。
⑦実は、お母様の最期のご注文の電話を受けていたのは私で、よく覚えていました。『毎年お宅のかつお節を頼むと、年の瀬って感じがするわぁ!』『お宅のは、普段はなかなか使えないんだけど、お雑煮だけはそちらの枯節じゃ無いと、主人が納得しないのよぉ』と、楽しげにおっしゃられていたのです。
⑧そのことをお伝えすると、また泣かれて、ありがとうございますと、何度もお礼をおっしゃられました。その後ご注文を受けて、出汁の引き方やかつお節の扱い方などをお話をして終わりましたが、最後に言われたのが『これで、母の味が残せます』。この言葉に、不覚にも私が泣いてしまいました。
⑨家庭の味が、脈々と受け継がれていく。文化というものは、結局は家庭で育まれてつながっていくものなのです。その一欠片にでもなれていることが、嬉しかったのです。お宅のかつお節でないと、この味にならないの!この言葉は、かつお節屋にとって、最高の褒め言葉です。
⑩ということで、気合いを入れ直して、年末に向かいます。いい仕事、やりましょうね!うちのかつお節、うまいっすよ!いかがですか
一連の投稿の後、「日本の食文化は、今大きな岐路に立っています。うちの使わなくてもいいんで、ぜひ出汁を引いて、食と文化を『面白がって、楽しんで』ください!」とツイートしていた大塚さん。リプ欄には多くの感動の声が殺到しました。
「ちょっとどころじゃないよ、ヤメテヨもうハンカチどこよ」
「目からお出汁が」
一本の電話から繋がった「お客様」の思い出と「かつお節」について、大塚麻衣子さんに詳しくお話を聞きました。