長崎県佐世保市に、巨大な鉄筋コンクリート製の塔が3本立っている。正三角形に配置され、その圧倒的なスケールとSFのような佇まいは、さながら謎の古代遺跡のようだ。誰が何のために築いたのか歴史を紐解くと、旧海軍の通信施設「旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設」が、戦時中の姿をほぼ留めたまま残っているのだった。今は観光名所になっており、多くの人が訪れるという。
100年前に建築技術の粋を集めて建設
ある種特異な針尾送信所の光景が見られるのは、長崎県佐世保市針尾中町382番地。高さ136メートルあるコンクリート製の無線塔は、遠くからもよく見えるそうだ。
2022年にNHKが放送したSFドラマ「17才の帝国」では、ここでロケが行われた。またSNSでは、実際に訪れたり映像を見たりした人たちから「圧倒的な存在感」「異世界を感じさせる」「遠景での異物感も内部の異界感もいい感じ」などといった感想が投稿されている
これは1922年に旧日本海軍の佐世保鎮守府建築科が設計・建設した長波無線通信施設で、広漠たる太平洋に展開した艦艇や部隊との交信に使われた。
高さはいずれも136メートル、根元の直径が12メートルあり、それぞれ1号無線塔、2号無線塔、3号無線塔と呼ばれる。
同様の施設の中では損傷が少なく、ほぼ当時のまま残っている事例は他にはない。なにより、大正時代におけるコンクリート建築技術の粋を集めて築かれ、歴史的価値が高いこともあって2013年に国の重要文化財に指定された。
余談ながら、人類が電波を利用し始めた歴史は比較的浅く、120年ほどだという。電磁波の存在は以前から知られていたが、無線電信に成功したのは1895年、イタリア人の発明家・マルコーニによる実験が最初とされる。
無線電信の発明からわずか27年後に、これだけの無線通信施設をつくりあげた先人たちの底力を感じる。
正三角形に配置された3本の無線塔
針尾送信所に3本ある無線塔を直線で結ぶと、1辺が300メートルの正三角形になる。しかも1本も欠けることなく、3本揃って今も立ち続けているのだ。
100年前の建造物であることから、いつか地震がきて倒れてしまわないか心配になる。その疑問を、針尾送信所を所管する佐世保市役所教育委員会文化財課に尋ねてみた。
「文化財指定前の耐震診断では震度6弱では問題ないとの判断が出ております」
耐震補強工事も、とくに施されていないという。
ちなみに電信室は半地下式の耐爆構造で、通常の建造物よりはそうとう頑丈にできているようだ。
また文化財の敷地は公開されており、年間3万人が訪れるとか。
「コロナ禍前には4万人の人に来ていただいていました。駐車場やトイレもあって、ガイド案内も常駐しております。1号無線塔は外観のみ、3号無線塔は内部と外観、電信室は1階部分のみ見学可能です」
佐世保といえばかつては海軍の街で、今は海上自衛隊の基地があることで有名だ。海に背を向け、ちょっと山へ入れば陸上にこのような戦争遺産がある。戦争を賛美するつもりはないが、建築技術の優秀さは誇っていいだろう。
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▽ 佐世保市ホームページより「旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設の見学について」
https://www.city.sasebo.lg.jp/kyouiku/bunzai/kengaku.html