物価高の中、安い値段を維持しているもやし業界が、悲鳴を上げている。30年前と比べると、原料種子価格は3倍以上となり、従業員の賃金も上昇。にもかかわらず、もやしの全国小売価格は2割以上も下がり、店頭では今も1袋30円前後が多い。生産者たちは「もう限界。持続可能なサプライチェーンのために窮状を理解してもらいたい」と訴える。11月11日は「もやしの日」。
もやし業界の窮状が発信されたのは、7日付の日経新聞の朝刊だ。全面広告で「物価の優等生として家計に貢献できることはわたしたちの誇りでもありました。しかし、安さばかりを追求していては、もう続けていけない状況です」と強調している。
30年前と比較すると、海外から仕入れる原料種子価格は3倍以上の1キロ350円ほどの上昇。一方、小売価格は約40円から30円前後となり、2割減になっているという。広告ではこの状況を踏まえ、「もやしの未来のために 持続可能なサプライチェーンの実現のために もやし生産者の窮状をご理解ください」と大きな文字で書かれている。
「経費が上がり、単価も上がらない状況で次々と廃業者が出ている」。そう話すのは、広告主の「工業組合もやし生産者協会」で理事長を務める林正二さん(69)。1995年には全国に550以上あったもやしの生産者は、現在は8割減の110ほど。今年だけでも赤字経営が原因で、3、4の生産者が廃業したという。放っておくと大変なことになる―。そんな危機感から現状を知ってもらおうと広告を出した。
小売店との値上げ交渉で聞く耳を持ってもらえず
でも、どうして小売価格を上げられないのだろうか。林理事長によると、背景には小売店と生産者の力関係があるという。現在、生産者が小売店に値上げ交渉の商談をしても、聞く耳を持ってもらえないことが多い状況。「ほかの生産者のもやしを買う」。小売店にそう言われると、生産者は低価格を受け入れざるを得なくなるからだ。
「スーパーの野菜売り場で買い上げ点数が一番多いのがもやし。なので、もやしを安く売ることは店の安さを演出できる」と林理事長。競合店より1円でも安く売りたい。そんな思いが交錯して、もやしの価格が低くなり、納品価格も下がるという。だが、ウクライナ情勢で燃料が高騰すると、赤字になる生産者が多発。生産者協会でも値上げの必要性を訴えてきたが、なかなか分かってもらえないことが多かった。そのため広告には、小売店に窮状を理解してほしいとの思いが大きいという。
林理事長は「もやしが消費者に愛されて、おいしいと言ってもらえるのはうれしいこと。だからこそ、いいものを安定して届けたい。少しでも値段が上がれば違う。もやしの存続のために、安さを追求しない世の中になってもらいたい」と理解を求める。
◇
ちなみに、11月11日の「もやしの日」は協会が2012年に命名。1111…。数字の1の形がもやしに似ているからという。