信玄餅、実は製造者も綺麗に食べることができないらしい きな粉がこぼれ、黒蜜が溢れ…「私たちも『食べにくいなあ』と思ってます」

黒川 裕生 黒川 裕生

きな粉をまぶした餅菓子に黒蜜を絡めて食べる山梨の銘菓「信玄餅」。素朴な味わいで絶大な人気を誇る一方、あれをこぼさず綺麗に食べ切ることは不可能だと言われている。ネットで信玄餅を検索すると…

「信玄餅 食べ方 こぼさない」
「信玄餅 食べ方 コツ」
「信玄餅 食べ方 公式」

といった予測ワードがずらずらと表示される始末。しかし、果たして本当に不可能なのだろうか。例えば、実際に作っている人なら“正しい”食べ方を知っているのでは? というわけで、信玄餅を製造・販売している老舗「金精軒製菓」(山梨県北杜市)に聞いてみた。

「どうしようもありません」

「中身を紙コップや深めの容器に移すとか、やろうと思えば確かに方法はあるでしょう。でも、そのままでは無理ですね。どうしようもない」

どうしようもない!(笑)

しかし実は金精軒が公式サイトで「きなこをこぼさない、おすすめの食べ方」を紹介しているのを私は事前に確認済みなのだった。

「まず楊枝で信玄餅を一つ取り出し、その隙間にお好みの量の黒蜜をたらし、きなこと餅と黒蜜をからめながらお召し上がりになってみてください。きなこを黒蜜で絡めれば飛び散らなくなり、周囲にきなこをこぼすことなく、信玄餅を美味しくキレイにお召し上がりいただけます」と書いてありましたけど、あれは?

「普通に考えたら、一つ取り出すときにきな粉がこぼれますよね。だから結局どうしようもないんです」

ええっ、公式サイトに書いてあるのに!?

「あれはメーカーとしての“暫定的”な見解だとご理解ください。お客さまから食べ方についてよく質問されるのに、ホームページに何も書いていないというのは味気ないですからね! 何を隠そう、私たちも『黒蜜が絡みにくいし、きな粉が溢れるなぁ』と思いながら食べています」

食べにくさも信玄餅の魅力です

1902(明治35)年に創業し、尾白川の名水と地元の豊かな自然を生かした伝統的な製法で、素朴な味わいの和菓子を作り続けている金精軒。武田信玄が出陣の際に食べていた切り餅にあやかったという信玄餅は、50年ほどの歴史があるそうだ。なのに、いまだに「中の人」も綺麗に食べられないとは…。

そんなことでいいのでしょうか。そもそも、あの容器(縦6cm、横4cm、高さ3cm)が餅のサイズに対してギリギリすぎるのが良くない気がする。

「信玄餅を最初に売り出した先代の社長がああいう形にして、それを継承しています。それを思考停止だと言われれば、そうかもしれません」

そこまでは言っていません。

「私たちは、あの食べにくさも含めて信玄餅の味であり、魅力であると考えています。誰も怖くないジェットコースターなんて、きっと楽しくないですよね。それと同じです」

理屈はよくわかりませんが、気持ちが楽になりました。これからも「黒蜜が絡みにくいし、きな粉が溢れるなぁ」と思いながら食べさせていただきたいと思います。信玄餅、大好き!

【金精軒製菓】 https://kinseiken.co.jp/

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