25歳の“イケメン和菓子職人”が全国コンテストで最高賞 ただいま出雲で修行中…技を磨き、夢を描く日々

宍道 香穂 宍道 香穂

 出雲市内の和菓子店に勤務する野田大晴(まさはる)さん(25)が、7月に横浜市で開かれた全国和菓子コンテストで最高賞を受賞した。日本一に輝いた受賞作と和菓子作りへの思いを聞いた。

「希望と平和」和菓子で表現

 コンテストは全国菓子研究団体連合会が10年前から毎年、開いている。近年は新型コロナ禍の影響で中止が続き、今年は4年ぶりに開催された。上生菓子、工芸菓子、盆菓子の計3部門に全国各地から約80点が出品され、野田さんが出品した上生菓子が最高賞のグランプリに選ばれた。

 野田さんは素材や色、形がそれぞれ異なる5種類の上生菓子で構成する「五つ盛(もり)」を作った。

 コンテストでは毎回テーマが発表され、出品者はテーマに沿った和菓子をデザインして作る。今年のテーマは「希望と平和」。野田さんは平和の象徴であるハトやオリーブ、四つ葉のクローバー、「真実の愛、信頼」が花言葉のマーガレットなどを模して五つの和菓子を作った。コンテストは季節や自然をテーマに設定されることが多い。「平和」や「希望」というお題は珍しく、発表された時は驚いたと言う。

 野田さんが作った五つの上生菓子の詳細は次の通り。

①    緑色のういろうをクルクルと巻き、四つ葉のクローバーの形の雲平(砂糖と寒梅粉、水をこねて作ったもの)を添えたお菓子。
②    「真実の愛」「信頼」といった花言葉を持つマーガレットの花を模した練り切り。
③    虹と紙飛行機をあしらった寒天。四角型の寒天の中に、ようかんで作った紙飛行機と虹が見えるデザインで、虹に向かって紙飛行機が飛んでいる構図に仕上げた。
④    かじられたオリーブを模したあんこ。
⑤    黒豆の「鹿の子」。鹿の子の上に、鳥の羽を模した白い雲平を乗せ、平和の象徴・ハトを想像できるデザイン。

 淡いピンクや緑色、白色を基調とした色合いで、全体的に明るく優しい印象の五つ盛だと感じた。虹に向かって進む飛行機といった「希望」も感じるデザインで、今回のテーマによく合っている。

 野田さんは今回のコンテストについて「正直あまり手応えがなかった。まさかグランプリをもらえるとは驚いた」と正直な気持ちを話した。ほかの出品者の作品は「平和」を直接的に表現している物が少なく、野田さんは「(平和の象徴を)ストレートに形にしたのが良かったのかなと思う」と推測した。

 平和や希望を象徴する物をそのままモチーフにしたため、題材には困らなかったと言うが「それぞれをどんな素材で作るか、どう表現するか、かなり悩んだ」と振り返った。

デザインと作り方に工夫

 例えばハトの羽を模したお菓子。ハトをモチーフにしようと決めたものの、鳥のシルエットにするのでは面白くない。ハトをそのまま表現すると、ほかの出場者とかぶるかもしれないとの懸念もあり、あえて「羽」だけを作り、見る人にハトを想像させるデザインにした。

 虹に向かって飛ぶ紙飛行機を表現したお菓子は、以前から構想していた「傾斜を付ける」というデザインを形にした作品。寒天を型に入れて固める時に、斜めにすると傾斜が付く。飛行機が前に向かって下がるように配置した。完成したお菓子を横から見ると傾斜が付いていることがよく分かり、飛行機が虹に着陸するように見える。

 飛行機のお菓子に傾斜を付けるアイデアは「前日の夜、12時頃に思いついた」と言う。以前から頭に描いていたアイデアを急きょ、出品作に組み合わせ、個性的な和菓子を完成させた。

プロの技まね デザイン勉強

 和菓子の作り方を習得していても、デザインを一から自分で考えるのは大変で「作る時間よりも(図面を)考えている時間が圧倒的に多い。四六時中考えている」と言う。野田さんは毎月1回、東京で開かれる品評会に和菓子を出品し、技術を磨いている。

 デザインは和菓子の業界紙を読み込み、勉強する。「読み過ぎて内容を覚えてしまった」と笑いながら「まずは掲載されているお菓子を徹底的にまねて作る。その後、自分の色を出していく」と、技術を磨く過程を説明した。

技術磨き 経営も学びたい

 野田さんは香川県丸亀市出身。実家は創業50年以上の菓子店で来春、帰郷し店を継ぐ予定という。店は和菓子、洋菓子どちらも販売している。

 野田さんは「子どもの頃からなんとなく、将来は店を継ぐのだろうなと思っていた」と話した。進学校の高校に入学し、友人と勉学に励んだり大学について調べたりする中で、受験や大学進学の道を考えたこともあるが、やはり菓子職人を目指したいと東京製菓専門学校に進学した。

 周囲の人に「大学は行ったら?」と言われることもあったと言う。野田さんは「大学を卒業してから製菓の道に進むという選択肢も十分にあると知っていた」と言うが、少しでも早く菓子作りを学ぶため、専門学校への入学を決めた。

 専門学校に在学していた時から知っていた菓子職人・土江徹さん(46)の店に就職し、来春で5年間の修業を終える。初めて暮らした島根は「丸亀よりも田舎と思った」と笑う。当初は慣れない仕事に追われながら、周囲に友達もおらず苦労したという。1年ほど続けると仕事にも慣れ、3年目には後輩ができた。現在は2人の後輩がおり「あと半年間、自分が学んだことを伝えたい」と頼もしく話した。

 師匠の土江さんは野田さんについて「飲み込みが早い。あと半年、うちにいる間は後輩にいろいろ教えてあげてほしい」と話した。また「同業者の友人や先輩に分からないことを教わっているのを見ると、人に好かれやすいタイプなのだなと感じる」と、野田さんの素直な姿勢を評価した。

 野田さんは今後、帰郷して店を継ぐことについて「不安よりも楽しみという気持ちが大きい」と力強く話した。菓子作りの技術を磨きながら商品の売り方など経営について勉強したいという。

 菓子業界全体を盛り上げたいとの目標もある。菓子職人の現場は長時間労働など厳しい労働環境になりやすいと言い「自分がホワイトな現場で修業できたからこそ(業界全体の労働環境を)良くしたいと思う」と職人と経営者の両方の視点から夢を描いている。

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