「ゴダールが死んだって」「えっ?」 初期作品の特集上映が追悼上映に 東京・池袋の名画座の一日

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「おい、ゴダールが死んだって」ーー。

9月13日。フランス映画の巨匠・ジャン=リュック・ゴダール氏が、91歳で亡くなった。1960年代から「ヌーベルバーグ」の旗手として多くの映画ファンを虜にし、SNSでは映画関係者から政府機関まで、追悼のツイートが止まない。

そんななか、ぐうぜんゴダールの映画作品を、わずか5日後に「上映予定」だった映画館があった。池袋の名画座「新文芸坐」だ。

上映作は『女と男のいる舗道』(1962年)と『女は女である』(1961年)。初期ゴダール映画の傑作と言われる2本だ。

9月19日に上映を控えていた同館は、どんな気持ちで監督の死を受け止めたのか。新文芸坐でプログラムを担当した花俟良王(はなまつ・りょお)さんに電話で話を聞いた。

ーーゴダールの訃報はいつ知りましたか。

「13日の17:00ごろ、外出中でしたね。ヨーロッパのどこかのメディアがツイートしていたのを、Twitterで見かけたんです」

そのとき、花俟さんは「フェイクニュースかもな」と思ったという。享年91歳、一般的には”大往生”と言える高齢にも関わらず、どこか信じられなかった。

その後、みるみる報道が増え、日本でもニュースが出はじめる。新文芸坐の事務所に戻り、「ゴダールが死んだって」と開口一番告げた。同僚の反応も同様だった。「えっ?」という感じで実感がわかない。

「みんな、頭のどこかで、ゴダールがいなくなるなんて考えてもいなかったんだと思います。そういう作家でしたね」

常識にとらわれない奇想天外な映画手法を次々と発明しつづけたゴダールだからこそ、その逝去すらも、幻めいて感じたのかもしれない。

フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメール、ジャック・リヴェット…ヌーベルバーグで一時代を築いた映画作家たちは世を去り、ゴダールが「最後のひとり」と言える状況だった。大きな時代が終わった一夜だった。

そしてこの夜、新文芸坐は「ゴダール追悼上映」を行う映画館となった。

ーーなぜ、この時期にゴダール作品の上映を予定していたのですか。

「9月は『女性』をテーマにした特集プログラムを組んでいます。社会派の映画やSF映画までさまざまな女性の姿を描いた映画を集めました。そのなかにゴダールも加えようと決めたのは、つい8月のことです」

ゴダールは90年代からリバイバル・ブームが起き、国内でも若者を中心に熱狂的なファンを獲得した。1956年オープンの同館のみならず、日本中の名画座がゴダールの恩恵にあずかった。その動員力はいまでも健在だという。

1956年オープンの新文芸坐には、ゴダールが日本に公開されはじめた当時を伝える、手書きで修正が入ったプレスシートも残っていた。

ーー訃報をきっかけに、これからゴダールに触れる方も多いと思います。

「年間700本ほどの映画を上映していますが、ゴダールは古参のファンよりも若いお客さんが多く入る、数少ない監督です。とにかくかっこいい、古びない面白さがあります。私も若いころにゴダール作品に出会いました。最初は『勝手にしやがれ』(1959年)だったかな。主演のジャン=ポール・ベルモンドがくちびるに親指をあてるしぐさを真似したことを覚えています」

花俟さんが、ゴダールがいまでも生きているかのように話していたのが印象的だった。

   ◇   ◇

■新文芸坐
・東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
・Twitter https://twitter.com/shin_bungeiza

【上映情報】
ジャン=リュック・ゴダール監督作品
9月19日 16:30-『女と男のいる舗道』(1962年・フランス・84分)
9月19日 18:30-『女は女である』(1961年・フランス・84分)

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