バリ島の元保護猫2匹、致死率の高い猫パルボウイルス感染症乗り越え奇跡の生還・・・「ふたり」の命と向き合った日々を保護主に聞いた

渡辺 晴子 渡辺 晴子

インドネシアのバリ島に住むイガラシさんが保護した熊五郎くん(雄・2歳)と花ちゃん(雌・1歳)。2匹は今年(2022年)春、致死率の高い猫パルボウイルス感染症(以下、パルボ)を立て続けに発症しました。熊五郎くんが3月、そして花ちゃんが5月。一時は命が危ない状態になったものの、乗り越えて奇跡的に完治したといいます。

保護主のイガラシさんは「バリ島の自然文化や人々が好きで、20年前から毎年渡航するようになり2020年3月からバリ島に在住しています。こちらに来て熊五郎と花との出会いがありました。これまで犬や猫を飼ったことのない私が自ら保護し、パルボに感染するなど怒涛(どとう)の日々に。常にふたりの命と向き合いながら暮らしています」と話します。

猫パルボウイルス感染症とは、感染すると、発熱や嘔吐、下痢といった症状を示して、重症化すると数日間で死に至ることもある動物の感染症。特に免疫力が低い子猫は致死率が高くなるといいます。

熊五郎くんとの出会いは2020年7月10日、イガラシさんが市場を訪れたときのこと。どこからか「ミャオミャオ」と猫の鳴き声が聞こえてきました。段ボール箱の中からでした。開けてみると、汚れた体の子猫が1匹。目やにがいっぱいで目が開けられない状態に。市場の女性によると、野良犬から守るために段ボール箱の中に子猫を入れて一時保護していたといいます。「このままでは小さな命が絶えてしまう」と思い立ったイガラシさん。市場の女性にお願いして、保護して連れて帰りました。

「後で分かったのですが、車の窓から市場に向けて3匹の子猫を放り投げて行った人がいて、それを目撃した人が車の通りが多い道なので轢かれたらかわいそうと市場の敷地に入れてくれたそうです。ただ3匹はバラバラになり、その中の1匹が熊五郎でした。当時生後1カ月ほど。バリ島では子猫が生まれると市場に捨てる人が多いと聞きました。市場は人がいつもいてご飯をあげる方がいるから生きていけると思い、捨てるとか・・・あのときすぐ熊五郎の保護を決めたのは、小さな命を放っておけなかった。ただそれだけです」(イガラシさん)

市場で保護した猫がバルポの陽性 一時は「助かる確率は10%未満」と宣告も

イガラシさんが初めて保護した熊五郎くん。病気一つしたこともなく元気に過ごしていましたが、今年3月2日、体に異変が起きたのです。この日にご飯も水も受け付けなくなり、夕方から夜にかけて嘔吐が続きました。翌日に病院に連れて行こうと思ったものの、3日はバリ島ではヒンズー教のお正月「ニュピ」と呼ばれ、バリ島全域で翌朝まで外出禁止となる日。病院に連れて行くことができず・・・丸2日間飲まず食わずで、熊五郎くんは何度も嘔吐を繰り返しぐったりしていました。そして、「ニュピ」明けの4日朝、急いで病院へ駆け込んだそうです。

「先生に状況をお話し検査してもらったらパルボの陽性で即隔離入院となりました。バリ島では『Feline panleukopenia virus』と呼ばれている猫パルボウイルス。非常に感染力の強い猫感染症で致死率が高く、ここバリ島では感染し亡くなる猫が非常に多いと聞きました。熊五郎はウイルス感染症予防のワクチン未接種で状況は厳しいと言われて・・・特効薬もなく、輸液と抗生剤の投与で頑張ってもらうしかありませんでした」(イガラシさん)

当時熊五郎くんは1歳半ほど。入院して3日目の6日には呼吸が苦しそうになり容体が急変。入院した当初から黄疸も出ており、「一度コンディションが下がると助かる確率は10%未満」とも宣告されていました。万が一のことが頭によぎり連れて帰ろうかと思ったというイガラシさん。ただ点滴を外しての退院となると言われ、連れて帰ることはできませんでした。

「泣きながらくまを助けてと先生にお願いしたのを今でも覚えています」とイガラシさん。「この日を乗り越えればきっと完治してくれるはず。くま頑張って、生きて!」と祈るばかりだったそうです。

イガラシさんの祈りが届いたのか、翌日何とか峠を越した熊五郎くん。その後は少しずつ回復に向かい、3月10日退院となりました。

  ◇   ◇

保護した猫が退院の日に突然現れた猫 保護後、5匹の子猫を出産 

3月10日の熊五郎くんが退院の日の朝から、イガラシさんの家に毎日ご飯を食べに来る猫が現れました。それが花ちゃんでした。当時生後6カ月ほど。しばらくはどこかに寝床があったのか、夜になるといなくなりました。

そのうち花ちゃんは日に日にお腹が大きくなり、妊婦猫だと分かりました。目の届くところで出産してほしい、産まれてくる子に幸せになってほしいと願い、保護を決意。ただ先住の熊五郎くんが猫パルボを完治したばかり。同じ部屋での保護はできず、部屋の前のバルコニーにケージを置いての保護となりました。

そして4月13日、花ちゃんは5匹を出産。しかし、1匹は生まれてすぐ命を落とし、4日後にはもう1匹も死んでしまいました。残された3匹の子猫。母乳を飲み体重も増え、順調に育っていました。

保護した母猫と産まれたばかりの子猫がバルポを発症 子猫たちは次々と命を落とした・・・

そんな幸せな日もつかの間・・・5月2日に花ちゃんが熱を出して食欲もなくなり、さらに1匹の子猫も嘔吐。花ちゃんたちの体に異変が起きたのです。嫌な予感が頭によぎったイガラシさん。花ちゃんと3匹の子猫を急いで病院に連れて行き、検査をしてもらいました。その結果、花ちゃんがパルボの陽性。子猫たちに母乳を飲ませて育てていたため、3匹も「母子感染している」と言われ、親子で隔離入院となりました。

「ちょうど2カ月前の3月2日、熊五郎がパルボを発症。親子が同じ病気にかかったことは神様のいたずらとしか思えないほど大きなショックを受け、どうしてどうしてと思うばかりでした。花たちは入院したときから母子感染し助かる確率はゼロに近いと言われていましたが、ネットでパルボを完治した赤ちゃん猫がいると知り、3匹の子も絶対完治してくれると信じていました」(イガラシさん)

しかし悲しい知らせが・・・5月5日朝病院から1匹の子猫が死んだと連絡。さらに、その日のうちにもう1匹の子猫も死んでしまいました。翌日6日、悲痛な思いを抱えつつ面会に訪れたというイガラシさん。この日花ちゃんの容体も急変し、「命が危ない」と宣告されました。ぐったりとした花ちゃんのそばには残された1匹の子猫の姿が・・・「赤ちゃんと一緒に頑張って!!」と声を掛け、祈ったといいます。

このときばかりは、イガラシさんの祈りは届かず。7日朝、残された子猫が「亡くなった」と病院から連絡がありました。ただずっと起き上がるのもままならなかった花ちゃんは峠を越し一命を取り留めました。再び面会に訪れたイガラシさん。隔離室のケージの中で悲しそうに鳴いていた花ちゃんを見て、いたたまれない気持ちになったそうです。

5匹の子猫を失ってしまった花ちゃん。その後回復に向いパルボを完治、5月10日に退院となりました。

  ◇   ◇

花ちゃんはバルポを完治後も、肺気腫や猫風邪などを患い入院。退院した今は、避妊手術を受けて熊五郎くんとともに仲良く元気に暮らしているそうです。

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