学生服の白いプラスチックカラー、製造中止で絶滅寸前らしい ブレザーの隆盛で詰襟自体も激減

黒川 裕生 黒川 裕生

男子学生服の定番、詰襟の学ラン。襟部分の内側に白いプラスチックを取り付けた「プラスチックカラー」タイプが、いつの間にかほぼ絶滅していたことが明らかになった。1979年生まれの私自身、中高時代はプラスチックカラーの学ランを着て、寝食を忘れて勉学に励んだものである。当時は「プラスチックのペタペタした感触がなんか気持ち悪いなあ」と感じていたような記憶があるが、勝手なもので、なくなったと聞くとそれはそれでちょっと寂しいナ…。プラスチックカラーの歴史や現状について、学生服メーカーに取材した。

今の詰襟、大半がラウンドカラー

プラスチックカラーに注目が集まったのは8月初旬。アニメーターの小谷杏子さん(@koni_ko222)がTwitterに「かなり久しぶりに仕事で詰襟の制服を描いたんだけど、作監さんの描いた襟の内側の作りが私が知ってる物と違くて、間違ってない?と思って色々調べたらそっちが世の中で9割以上のシェアを占めてた」「ラウンドカラーって言うんだ…。実物の制服を間近で見る機会がほぼ無いから知識が古くなってたよ」と投稿したのがきっかけだった。

これに対し、大手学生服メーカーである「明石スクールユニフォームカンパニー」(岡山県倉敷市)のアカウント(@akashi_suc)が「最近までプラスチックのカラーを生産されていた日本で唯一の工場も生産を取りやめられたので、今はラウンドカラーしか生産できないのです…!」と引用リツイート。多くの「元・学ランユーザー」たちが現状を知るところとなり、「そうだったのか」と大きな反響を呼んだ。

プラスチックカラーが激減している背景とは

明石スクールユニフォームカンパニーの担当者に話を伺った。

——詰襟にプラスチックカラーとラウンドカラーの違いがあること自体、初めて知りました。それぞれの特徴について教えていただけますか。

「プラスチックカラーは、カラー(白い部分)が汚れた際に付け替えが可能で、首元を清潔に保つことができます。ラウンドカラーは着用の際に首元が楽である一方、白いテープ部分が破損した際は襟自体の交換になるため、修理に時間がかかるのがやや難点です」

——両タイプの普及状況はどのようになっていますか。

「詰襟の学生服が普及し始めた当初は、全てプラスチックカラーを使用しておりました。そして制服メーカー各社が、詰襟学生服の見た目を損なわず、着用感が良いものを追い求めるうちに開発されたのがラウンドカラーです。襟の上部に白いテープを挟み、トリミングを施すことであたかも従来のプラスチックカラーを付けているように見せるつくりとなっています。襟元の着用感がとても良く、1980年前後の誕生から右肩上がりで普及していきました」

「当社も10年ほど前まではプラスチックカラーの詰襟学生服を生産しておりましたが、全国的に購入数が減少し、ここ数年で廃番とさせて頂きました。今はほぼ全国100%ラウンドカラーになっています」

——プラスチックカラーの製造が2021年で中止になっていたことも初めて知りました。どのような背景があるのでしょう。

「詰襟学生服自体の減少が関係していると考えられます。当社が制服提案をさせて頂く場合も、今はブレザーを希望される学校様がほとんどで、特にここ1、2年で一気に増えた印象があります。ブレザータイプはデザインのバリエーションが豊富で、詰襟に比べると学校の個性や多様性を表現できるところが利点かと思います」

「当社がお取引をしておりました大阪のプラスチックカラー大手メーカー様は2021年で製造中止いたしましたが、まだ他にも製造されている町工場もあると聞いております。そのため、他社様では現在もプラスチックカラーの詰襟を生産している可能性がございますが、いずれにしてもその数はかなり少ないものと思われます」

——さほど思い入れはない(すみません)とはいえ、気づかないうちに学生服の一分野が消滅しかけていることに大変な衝撃を覚えています。今後、日本の中高生の学生服が「プラスチックカラーの詰襟」に戻ることはないと考えていいのでしょうか?

「個人的な意見ではございますが、プラスチックカラーがトレンドに上がることはもうないと思われます。もちろんプラスチックカラーにも『汚れた際に取り換えができる』という利点はありますが、実際には生徒様自身が試着した際に、着心地の点からラウンドカラーが選ばれる場合が多いのが現実です」

——よく覚えていませんが、そういえば私もプラスチックカラーを取り外して着ていた気がします。

「そうでしたか(笑)。長時間着用する学生服において、首元の快適さは優先順位がかなり高いということをお客様から学びました。ラウンドカラー誕生後、プラスチックカラーの購入数は毎年減少しており、『どちらか選べるならラウンドカラー』というように、エンドユーザーの嗜好から自然淘汰されていったような印象です」

「そんなプラスチックカラーの誕生にも歴史がございます。元々、詰襟学生服の中には立襟シャツを着用していたそうなのですが、金銭的な理由でシャツを購入できない生徒もおりました。そんな事情から、シャツを着ているように見せるために生まれたのがプラスチックカラーだと言われています。『襟から白いものを出しておけばいい!』という発想ですね」

——なんと、そんな歴史が。ではプラスチックカラーの消滅について、今、あらためてどんな感慨をお持ちですか?

「今や絶滅危惧種となってしまったプラスチックカラーですが、生徒間の格差を埋めるために生まれたという小さい功績を皆様に知って頂けると、制服メーカーとしては嬉しく思います。また、SNSで話題になったことで、『私たちの時代はこうだった!』『ブレザータイプだから知らなかった!』と多くの方が制服に思いを馳せて下さったのも嬉しかったです。限られた期間しか着用できないものだからこそ、制服は思い出として皆様の記憶に強く残るということを実感させられた出来事でした」

制服は世につれ。

◇ ◇

【明石スクールユニフォームカンパニー】
1865年、小倉・真田帯地、細紐類の製造業「西屋」創業。1930年代に本格的な学生服製造を始め、1944年、明石被服興業株式会社を設立した。企画・営業部門を担う新会社として2015年に分社化したのが、明石スクールユニフォームカンパニー。
明石被服興業株式会社は、宣伝カーによるPRや、山口百恵さんとのテレビCM契約などの広報戦略、森英恵さんとのデザイン提携など、先進的な取り組みでも知られている。
■公式サイトhttps://akashi-suc.jp/

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