売り切れ続出の人気ソフトクリーム屋、場所は工事会社の一角…どうして?? 発案した若手社員の思いとは

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 松江市東出雲町揖屋に約40種類のソフトクリームを販売する、ちょっと変わった工事会社がある。冷たいスイーツが欲しくなる今の季節にぴったりだが、なぜ工事会社とソフトクリームの組み合わせなのか、興味を引かれて訪れてみた。

本格的なメニュー

 店はJR揖屋駅から徒歩5分ほど。道路を挟んで住宅や商店が多く立ち並ぶ場所で、空調、電気、水道設備の工事会社「テクノ技研」の一角にある。敷地に入って右手の小屋には「Happy」と店名が掲げられ、カウンター近くにはソフトクリームのオブジェとメニューが置かれている。事務所は敷地の奥にあり、知らずに会社前を通った人はソフトクリーム店にしか見えないだろう。

 メニューにはコーンやカップに入ったソフトクリームにチョコ、イチゴ、キャラメル味などのシロップをかけたシンプルなものから、一口大に切ったバナナを盛り付けたり、プリンや生クリームを添えたりと一手間加えた多彩なソフトクリームが並ぶ。メニューの豊富さと手の込んだソフトクリームを見ると、本業の片手間というレベルではなく、本格的なソフトクリーム店だ。

 店頭に立つアルバイトの若い女性によると、一番人気はコーンフレークの上にプリン、その上にソフトクリーム、さらにサクランボやクッキーが載った「プリンサンデー」(500円)。早速、注文すると、3分もたたない早さで「お待たせしました」とプリンサンデーを手渡された。

 食べてみると、デパート内にある喫茶店で出てくるアイスやパフェを思い出す、飾り気のない素朴な味がした。値段は多くが350円。子どもが急にアイスやソフトクリームを欲しがった際にも「じゃああそこに買いに行くか」と気軽に行けそうな価格だ。

駄目元で提案し実現へ

 ソフトクリーム店を運営するのはテクノ技研工務課の藤原智也さん(27)。空調や電気工事といった本業のかたわら、ソフトクリーム店の原料の仕入れや新商品の考案を担当する。昔からソフトクリームをはじめ甘いものが好きで、2021年夏に社内で新事業の案を求められた際、駄目元で「ソフトクリーム店をやってみたい」と言った。すると、社長から「面白い。じゃあそれをやろう」と採用されたのが始まりだという。

 会社の資材置き場(約30平方メートル)だった小屋を活用し、内装の改修やソフトクリームを作るサーバーといった機材の導入に約450万円をかけて2021年10月、Happyをオープンした。当初は藤原さんと社長の奥さんの2人で切り盛りしたが、現在はアルバイトを雇い、藤原さんが仕事で出かける際の接客を任せているという。気温が下がり始める秋にソフトクリーム店をオープンするという攻めの姿勢だったが、藤原さんは「寒かったこともあり、最初はがらがらだった」と苦笑いした。

 近所にチラシを配り、インスタグラムでの発信に努めたほか、気温が上がってきたことで5、6月ごろから子供連れを中心に利用客が増え始めた。周囲に同様の店がないこともあり、今では多い日は一日に80~100組が訪れる。利用客が店の前に集まることで作業車が事務所前まで入れない日もあるという。

 客からは「このあたりにはこういう店がなくてうれしい」と好評で、社員にも「繁盛しているじゃないか」と褒められている。藤原さんは「本業よりもソフトクリーム店として認識している人の方が多いかもしれない。繁盛はうれしいが、それはそれで複雑」と笑った。

客の要望受けメニュー倍増

 藤原さんはチャレンジ精神が旺盛で、思い立ったことはまず試してみる性分。メニューは開店当初は20種類程度だったが、客や社員からの「こんなメニューが欲しい」という要望を反映するうちに、約2倍に増えたという。使用する果物は毎回、近所のスーパーで購入している。

 ソフトクリーム店をするようになり、藤原さんは本業の時よりも身だしなみに気を遣うようになったという。工事中はあまり意識しない、笑顔で客と接することの重要性にも気づき、本業でも積極的に笑顔を見せるようになった。本業では家庭で空調が壊れ依頼が入ってから動くなど待ちの姿勢が多いのに対し、ソフトクリーム店は常に選んでもらうための情報発信の手法に知恵を絞るといった自ら動かなくてはならない点も、新たな気づきだ。

 7月からは、かき氷の提供も始め、さらに多くの客を取り込むために、秋以降も何か新しい商品を打ち出したいと考えているという。ソフトクリーム店のオープン以来、初めて夏の書き入れ時を迎え、藤原さんは「今後もお客さんに喜んでもらうことに加え、本業にもつなげられるようアイデアを出していきたい」と意気込む。

   ◇   ◇

 工事とスイーツという、一見接点のない業種が一体となって展開する店。そこは一人の若手社員が好きなことを仕事にし、客の笑顔のために試行錯誤しながら切り盛りする場所だった。冷房機器の調子が悪い人がいたら、機器の修理を頼むついでに家族や子どもを連れて、ソフトクリームで涼を感じると一石二鳥だ。

 Happyの定休日は毎週水、木曜日で、営業時間は午前10時から午後6時まで。一日に用意できるのは約120食で、売り切れ次第終了。早い時は昼過ぎに売り切れることもあるので、ご注意を。

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