国内の大手IT企業が続々と働く場所を選ばないロケーションフリー化に舵を切っています。ヤフー株式会社は2014年にオフィス以外も含め、働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」をいち早く導入。その後、制度の改正を重ね、2022年4月から居住地を全国に拡大、飛行機出社も可能となりました。まいどなニュースは、この制度を使って「自分らしく働く」ヤフー社員に話を聞きました。
沖縄・西表島に魅せられて移住を決めた50代の藤堂淑昭(とうどう・よしあき)さん。2008年から愛知県の名古屋オフィスで勤務していましたが、単身移住した4月以降は家族がいる名古屋と西表島を行ったり来たりの二重生活を送っています。とにかく自然が好きで、以前から沖縄の離島を巡っていました。コバルトブルーの海には多様な生物が住んでいます。スキューバダイビングで、そんな水中の世界を旅行でなく、“居住地”として楽しめる環境を手に入れました。
実は「ずっと前からこっちに来たいと思っていた」という藤堂さんは、早期退職も視野に入れていました。それほど移住に対する思いが強くなっていたのです。そんなタイミングで「どこでもオフィス」の拡充がアナウンスされました。「この制度が決まったときは非常に嬉しかったです。ヤフー社員として働き続けながら移住ができるようになる」と、渡りに船とばかりに、西表島行きを即決しました。
--念願かなって西表島暮らし。仕事をする上で名古屋にいるときと変わりましたか?
「名古屋でリモートワークをやっているときと変わりはありません。自然環境が好きで、そのなかで仕事をしてみたいと思っていましたが、実際、オンオフをしっかり切り替えられています。そのせいで仕事のパフォーマンスは結構上がったと思います。オンのときの集中力が高まったと実感しています」
藤堂さんは名古屋オフィス時代から、業務委託のソーシング業務を担当しています。IT企業はいまエンジニア不足が叫ばれています。藤堂さんは、開発現場からリクエストをもらって、業務委託先の人材とマッチングさせる仕事を担っています。
--西表島はかつて訪れた場所だったのでしょうか。
「最初は2000年前半に家族で訪れました。それ以前にも沖縄の離島巡りをしていましたね。きっかけとなったのはサバティカル制度ですね。3カ月休暇がいただける制度で、2019年にそれを利用して実際、西表島で生活できるかどうかトライアルで滞在しました」
▼「サバティカル制度」 ヤフーは2013年11月、一定のキャリアを積んだ社員がキャリアや経験、働き方を見つめ直し、考える機会をつくることで、さらなる成長に繋げてもらうことを目的とした制度として導入。 取得可能期間は最短2ヶ月からで最長3ヶ月。
--家族でなくて単身を選んだ理由は?
「家族とは長い時間かけて話し合いました。(最終的に)ボクが『行きたい』と言って、行かせてもらいましたね。一緒に行くなら行ってもいいとは言ってくれました。家内もいずれ沖縄には行きたいと希望しています。子どもたち(長男と長女)は、(独立して)名古屋で仕事持っています。基本的には二重生活で行ったり来たりすることを選びました。健在なのですが両親が90歳を超え、やはり高齢なので心配ですし…」
オフィスは民宿のスタッフルームを改良
--西表島の生活環境は?
「民宿のスタッフルームを改良してもらって、そこで長期滞在しています。食事は自炊をするか、飲食店に行くか、ですね。原付で10分走ればスーパーがあります。きれいな色をした魚があって、美味しいんですねよ。グルクンの唐揚げなんかも美味しい。あと11月解禁の琉球イノシシが有名で、美味しいんですよね」
--趣味のダイビングは楽しんでいますか?
「はい、潜っています。楽しいですね。月に3日ぐらいは海に出ます。こちらは海自体が多様で、きれいな海。汽水域(淡水と海水がまじりあっている状態)という特殊な環境があり、そこには多様な生物がいます。特に個人的にはタツノオトシゴ系、ピグミーシーホース、イバラタツとか好きです。マンタも見ることできますし、見ると感動します。ハゼの仲間も、きれいなハゼを見つけると写真に撮っています」
--島の人たちと交流していますか?
「昭和の感覚と言いますか、とにかく皆さん、あたたかいですね。サバティカル制度を使って休暇中に滞在したときから小学校の野球チームでお手伝いをしています。ノックをしたり、キャッチボールをしたり…。中学から大学まで野球をやっていました。社会人になってからも、草野球チームを掛け持ちするほど野球は好きなんです。現在はコロナ禍で頻度は少なくなったけど、仕事が早く終わったときなど、行けるときは行っています。そこで父兄の人たちのコミュニティに入れてもらって、仲良くさせてもらっています」
▼「どこでもオフィス」拡充 ヤフーは2022年4月、社員の通勤手段の制限を緩和、居住地が全国に拡大された。これまでの同制度では、国内なら好きな場所で働けることになっていたが、居住地に関しては、出社指示があった際、午前11時までに出社できる範囲に限定されていた。制度拡充とともに午前11時ルールが撤廃され、国内であればどこでも住めるようになった。出社は電車、バス、新幹線に加え、特急や飛行機、高速バスも可能になった。交通費は15万円まで、どこでもオフィス手当や通信費補助計1万円、社員間の懇談会費5000円(いずれも月あたり)。希望者にはタブレット貸与。対象は全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人。