半シャッターの奥にある「大人の秘密基地」 商店街の人たちから頼りにされるホビーイストたちがいた

佐藤 利幸 佐藤 利幸

「秘密基地」-。その言葉の響きに、ゾクゾクするのは昭和生まれの性なのだろうか。大人になったら趣味に没頭できるスペースを確保するゾ、子どものころはそう思っていても現実はなかなか難しい。実際に商店街の空店舗をリフォームして、大人の秘密基地を作った人たちがいると聞きつけ、現地へ向かった。

場所は兵庫県神戸市内にある水道筋商店街、どこか昭和のノスタルジックなムードが漂う商店街だ。そのなかの灘中央市場に「C-SPACE Nada」はあった。商店に挟まれたその“店舗”は半分だけシャッターが開いている。上部にはデジタルサイネージの看板。そして呼び鈴代わりのバスの降車ボタンを押すと、手作り感のある装置が、コンビニの入店音を奏でる。中に入る前からカオスな空間の予感させた。

「こんにちは」。笑顔で出迎えてくれたのは、教育機関勤務のぐるさん。2019年に他の2人の仲間とともにこのファブラボを立ち上げた1人である。入ってすぐのスペースには、3人分の椅子と机が置かれ、所狭しとパソコンやモニターや3Dプリンター、猿や般若、ガイコツなど見た目気持ちの悪いお面まで点在していた。部屋の上部に目をやると、カメラ付きプラレールが一周できるように部屋をぐるりと“線路”が囲んでいる。そんな混沌とした室内なのに、不思議と気持ちが落ち着くのはなぜだろう。

--「C-SPACE Nada」ができたいきさつを教えてください。

「3人は35年以上前から友達なんです。パソコン通信で知り合った仲間。20歳の学生のころにも、一軒家を借りていたんです。そのころはキューハチ(NECのパソコン、PC-9800シリーズ)のソフトを作って売ったりして。その後バラバラになったんですが、ひょんなことから再会して『昔みたいにやる?』となって3年前に借りたんです」

--ここは一体、どんな場所ですか。

「電子工作が好きな3人の共同作業場、ファブラボですね。3人はそれぞれ得意分野があって、居酒屋でこんなものを作りたいって話が出れば翌日にはもう試作品ができている。ここを見つけたのは、Yくん。防音、断熱までやってくれてね。以前は『やはたや』っていうおばあさんが切り盛りしていた毛糸・寝具店で、おばあさんたちのコミュニティ・スペースになっていたらしいんです。その意思を継ごうだなんて思ってはいなかったけど、立地が商店街のなかということで、結果的に地域の人と交流を深めるようになり、いろいろなイベントを手伝うようなりました。(商店の人から)競馬中継を聞くためのラジオが壊れたから直してほしいという依頼もありましたよ」

--どのくらいの頻度で来ていますか?

「ほぼ毎日ですね。仕事が終わって…夕方から日付が変わるくらいまで」

--えっ、家族からは何も言われない?

「(奥さんは)好意的ですよ。夜な夜な飲み歩くよりは、ここでモノ作りしている方が安心なんじゃないですか。それに家で同じような作業をすると、(材料などを)散らかすじゃないですか。ここで作業する方が、いいと思っていると思いますよ」

ぐるさん、山本さんにKさんを加えた3人はここで趣味の時間を堪能しているほか、それぞれの知識を生かし、この3年で実に様々な地域貢献を行っている。地域の子どもたちに楽しんでもらえるように工作のワークショップを開いたり、プラレール運転会を開催。また、山では肝試しを体験してもらえるように得意の電子工作で“おばけ”作りも行った。「あまりにも怖くて、子どもがガチ泣きしたのは困りました」(ぐるさん)。室内に猿や般若、ガイコツのお面があったのは、そのとき使ったものだという。

東神戸マラソンでは実行委員会から先導車(自転車)用のパトヘルの製作依頼があり、昨年12月には「光る!回る!タンタン坂バス!」のイベント用に内装の製作依頼もあった。住民から親しまれているスクールバスほどの大きさのバスの天井に、鮮やかなイルミネーションをほどこし、好評を得ていた。

ぐるさんは言う。「少しでもモノ作りのお手伝いができれば。オープンで開かれたこの場所にさえ行けば、IoTであれどんな複雑なものでも簡単に誰でもすぐに開発できます。交流スペースでもないけれど、ワーキングならぬコホビーイング的な居場所」。当初は自分たちが楽しむために作った秘密基地だったが、いつしか地域貢献の拠点となっていた。

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