「婦人科の3種の神器です」 先生から教わった3種類の漢方 夜中の動悸に悩むベテラン婦長に勧めてみると

ドクター備忘録

川口 惠子 川口 惠子

今回は更年期と漢方薬についてお話します。ホルモン補充療法と並んで更年期の女性に広く用いられている漢方薬ですが、その歴史は古く中国で2000年以上前に行われていた医学を元にしています。

中国には「皇帝内経素問」という約2000年前に書かれた凄い医学書があります。その中に女性の一生についての記載があります。当時の人は腎臓に生命のエネルギーが宿っていると考えていました。そのエネルギーが働きはじめるのは女の子が7歳の時、そして14歳になると初潮を迎えます。28歳で女盛りとなり、49歳で腎エネルギーが尽きて閉経するとあります。

現代の初潮平均年齢12歳、閉経年齢が50.5歳ですから2千年の間に大きな変化はないと言えそうです。そして昔も今も更年期をはじめ人間の悩みは共通で、様々な漢方薬が考案されて来ました。漢方薬の多くは2千年前には既に使用されており、その後考案された薬も含めて長い歴史を持っています。

効果のないものや副作用の強いものは淘汰されて優れたものだけが後世に伝わったと言えるでしょう。そしてホルモン剤は乳癌の既往がある人、血栓症や脳梗塞などの既往がある人には使えないのですが、漢方薬を使ってはいけない人というのはほとんどありません。ただ難しいのは健康保険が使える漢方薬だけでも120種類以上あり、それぞれの患者さんに合った漢方薬を選ぶのが難しいという点です。

私が漢方薬を勉強し始めた頃、ある講師の先生が次のように話されました。

「女性に漢方薬を処方する時初心者は(1)当帰芍薬散(2)桂枝茯苓丸(3)加味逍遥散のいずれかを使いましょう。(1)はほっそらと痩せて冷え性、顔色が悪くて貧血っぽい人、(2)はがっちりした筋肉質で赤ら顔、足が冷たく頭はのぼせる人、(3)は神経質で訴えが色々変わりのぼせ気味、イライラや気分の落ち込みがある人、この3種類を使い分けるだけで80%の患者さんはOKです。これを婦人科の3種の神器と言います」

漢方を勉強し始めたばかりの私は、とにかくこの3種類の漢方薬の名前を覚えました。それから間もなく私が勤務していた病院の小児科の婦長が相談に来ました。「最近フワーっと熱くなって動悸がするんです。夜中に動悸がして目が覚めて困ってます」と症状を訴えます。私は覚えたての3種類の薬の中から加味逍遥散を彼女に勧めました。

2週間ほどして彼女がうれしそうな顔をして近づいてきました。「先生あの薬よく効きました。動悸が減って夜もよく眠れるようになりました」。今から考えるとビギナーズラックとしか思えませんが、とにかく当時の私は漢方薬の効果に驚きました。今でも加味逍遥散は更年期の方に私が最もよく処方する薬です。

加味逍遥散は月経不順、月経痛、のぼせ、頭痛、肩こり、イライラ、気分の落ち込みなどにとても有効です。もちろん全ての患者さんに3種の神器が有効なわけではありません。一人一人の患者さんの体質や症状のあった処方を探さなければなりません。それはとても難しいことですが楽しみでもあります。漢方薬の特徴はとても守備範囲が広いことです。症状はあるけれど検査をしても異常がない(でも本人はとてもつらい)場合、西洋薬では薬はありません。またあまりにも病気が重すぎる場合も西洋薬では有効な薬がありません。しかし漢方薬は病気とはいえない軽症の人から現代医学ではどうしようもない重症の人まで全ての人に使用できる薬が用意されているのです。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース