安倍元首相銃撃の容疑者 「1発目後、直ちに修正」小川氏が指摘 警備の不備にも言及「ほとんどの警察官が棒立ち状態」

小川 泰平 小川 泰平

 安倍晋三元首相(享年67)が8日に奈良県内で選挙演説中に銃撃されて死亡した事件を受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が13日、現地に足を運んで周辺の建物に残された銃痕などを検証した。小川氏は当サイトの取材に対し、殺人容疑で送検された元海上自衛隊員の山上徹也容疑者(41)の犯行当時の行動について分析し、さらに警護体制の問題点を現職時代の経験を元に指摘した。

 現場は近鉄大和西大寺駅北側の商業施設などが立ち並ぶ一角。安倍氏は参議院奈良選挙区の自民党議員の応援演説を行っていたところ、背後から銃撃された。最初の発砲は人に当たらず、2回目の発砲が安倍氏の体に当たったとみられる。奈良県警は13日、銃撃現場の北約90メートルにある立体駐車場の壁面で、山上容疑者が発砲したとみられる弾痕のような穴を3カ所確認したと明らかにした。穴の中から弾丸とみられるものを複数確認し、それぞれ高さ約4メートル、約5メートル、約8メートルの位置にあったという。この弾痕は最初の発砲で1度に発射された6個の弾の一部とみられている。

 小川氏は「角度から見る限り、この銃痕は2発目ではなく1発目。若干(じゃっかん)、上に向かって斜めに向かって撃っていると思われる。これだけの距離を考えると、十分殺傷能力のある改造拳銃と言っていいと思います。着弾した場所は人がいるような高さではない地点であり、最初の発砲では弾が入る角度が上斜めだったので、一般の聴衆に当たらなかったのは不幸中の幸いだった。この威力から見て火薬の量が非常に多かったと想像できる」と説明した。

 その上で、同容疑者が1発目と2発目の引き金を引く間に3秒ほどの時間があったことに注目。同氏は「動画等を見る限り、容疑者は1発目が外れた後で、1~2メートル前に出て2発目を撃っている。本人も10数年前とはいえ(海上自衛隊で)射撃をした経験があり、また今回使用した自作銃と同様のもので試射をしていることも考えられることから、自分が撃った弾がどこに向かって飛んでいったかが分かり、2発目でそれを修正したのではないかと考えられる」と指摘した。

 山上容疑者は犯行前日に岡山で行なわれた安倍氏の選挙演説にも足を運び、銃を隠し持っていたが、実行には至らなかった。同容疑者は逮捕後の取り調べで「岡山に持って行った銃とは別の銃を使った」と供述している。小川氏は「岡山では所持品検査があったのであきらめた。そこで、聴衆の数や場所、自分が近づける距離を考え、本人なりにもって行く銃を変えていたんだろうと思います」と推測した。

 さらに、小川氏は「安倍元首相が演説をしていた後方の警護、警備が薄かったと言わざるを得ない。後方を壁にするか、選挙カーなどを利用する等の対策が必要だったと言える」と警護体制の問題点を指摘した。

 まず、事件当時、周囲に制服警官の姿がほとんど見られなかったことについて、小川氏は「今回、警察側と自民党県連の陣営側がどういう話をしていたかは分かりませんが…」と前置きした上で、「私も経験しましたが、警護対象者の陣営は制服の警察官がすぐ近くにいることを嫌う場合がある。『交通整理以外は、できれば全員私服で立ってくれないか』とお願いされたことも、私が現職の時に実際にありました。候補者と聴衆の間に距離ができてしまうと言うことだと思います」と解説した。

 また、山上容疑者が警察官に制止されることなく、安倍氏の背後約7メートルまで近づいて銃撃したことについて、小川氏は「後方に警察官の数が少なかったということは言える。警護、警備はチームプレー。不審な人物が近づいてきた際に、何名かは警護対象者を守る役目、何名かは襲撃してきた者を封じ込める役目が配置先の各箇所で決まっていたはず。山上容疑者が動いていたのを認識していた警察官も間違いなくいたはずです。凶器となるものを出していない時点でも、声まではかけなくても近づいていくべきだった」と問題視した。

 小川氏は「1発目の発砲音が聞こえた時に、すぐ近くにSPや警護員がいたが、中には気づいて、しゃがんだ警察官もいた。また、ほとんどの警察官が棒立ち状態。私も音を聞いて、拳銃の発砲音のようには聞こえなかったですが、そこで一瞬驚いて、しゃがんだとしても、しゃがんだと同時に警護対象者(安倍氏)に飛びつくなり、抱え込むなり、足を取ってひっくり返すくらいのことをしてもよかったし、大声で『伏せろ』と叫ぶといった対応をすべきだった。結果論になってしまいますが、全くそれがなかったことは問題だったと思います」と指摘した。

 当初、安倍氏は長野県に行く予定が奈良県に変更となり、当日朝に警備体制が決まったことから準備期間が短かったことも指摘されている。小川氏は「確かに、その時間で完全な警備の陣営を配置することができなったということはある。もう一つ、自民党の宣伝カーという、ワゴン車より一回り大きい車を後方に立たせて、その前の壇上で演説することが多いのですが、今回は急に決まったので宣伝カーも準備できなかったそうです。いろんなことが悪い方に重なってしまったという印象です」と付け加えた。

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