元総理を襲った凶行 救急医が語る「銃で撃たれた人への応急処置」

平藤 清刀 平藤 清刀

白昼堂々、警備の目をすり抜けて政治家が撃たれる銃撃事件が日本で起きた。頻繁に起こることではないと信じたいが、もし目の前で人が撃たれたとき、どのような応急処置をすれば命を救うことができるのか。

銃弾が貫通した体は…

銃で撃たれたら、人間の体はどうなってしまうのか。本人の強い希望で氏名を公表できないが、救命救急センター長を務める医師に聞いた。

「刺入(弾丸が入ったほう)側は、釘や槍などで突いたと同じ穿通創(穴があいた傷)になります」

見た目の傷口は穴があいただけだという。もし至近距離から撃たれた場合は、傷口の周囲の皮膚に火薬による焼け焦げ跡もできるそうだ。

また、体内に入った弾丸は、そのまままっすぐ抜けていくわけではないらしい。

「通常はまっすぐに貫かれることなく、臓器や骨などの硬軟に影響されて、また弾丸自体のライフリングによる回転の影響もあるために、予測できかねる方向へ迷走し、体内に留まるか体外へ射出されます。弾丸の大きさにもよりますが、仮に5.56mmの弾丸ならば、射出口は拳(こぶし)大ていどの破裂孔ができます。組織の損傷は弾丸の迷入による断裂がほとんどで、鋭利な刃物でかき回したような損傷になります」

街頭演説中に撃たれた安倍晋三元総理大臣のように、不意に撃たれた場合、本人に撃たれたという自覚があるのか否かも気になる。

「最初は熱いと感じるようで、刃物で不意に刺された場合と似ています。撃たれた後も意識がある場合は、やがて臓器や大血管損傷による出血からの失血状態での脱力で立てなくなり、そのまま動けなくなる感じだと思います。あまり多くはありませんが、撃たれた患者さんからはそのような証言を聞きました」

撃たれた人の応急処置は

では、もし自分の目が届く範囲で撃たれた人がいて、二次的被害がなさそうな場合、どのような応急処置をすれば生存の確率が上がるのだろうか。

弾丸が貫通せず体内にとどまる「盲管銃創」ならば、射入口(弾丸が入った穴)をひたすら圧迫して出血を止めるしかないという。

「貫通銃創では、部位によっても異なりますが、基本は圧迫止血になります」

もし胸を貫通していたら開放性気胸にならないように、射出口側をガーゼパッキング等で可能な限り閉鎖し、射入口にはチェストシールを貼るのが望ましい。チェストシールがない場合はナイロンやビニール素材のようなもので3辺テーピングを行う必要があるという。

「胸腔内が呼吸に差し支えないよう、陰圧が保てる状態にできれば蘇生率が向上します」

銃弾を撃ちこまれたことによって胸に穴があくと、そこから外気が吸い込まれて胸腔の圧力が上がって肺を圧迫し、呼吸が困難になる。胸腔に入った空気を追い出して、あらたに空気が入らないようにするための処置がチェストシールを貼ることであり、代替手段として3辺テーピングという方法がある。

「チェストシールはその機能を詳しく知らなくても、そのほとんどが海外製で使用方法が図入りで書かれているので、それに従えば使用できると思います。3辺テーピングは解放辺を重力の側(仰向けに横たわっていれば背中に向かう側)にすることを理解して行えば問題ありません」

これらの処置は一般人でも行えるそうだが、咄嗟に行えるかどうかというと、ややハードルが高いという。

「安倍さんの悲劇は非常に心痛ですが、この機会にこういった処置が一般的に知られるようになればと思います」

実践の機会はない方が望ましい。しかし、命を守るためには必要な知識かもしれない。

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