京都市伏見区の京阪電鉄藤森駅近くにあるカフェレストラン「ポポロヒロバ」が、6月5日限りで閉店する。約400種類にものぼるユニークでバラエティーに富んだメニューが名物で、40年以上にわたって多くの学生や地域住民らに親しまれてきた。「お客さんに支えられてきた。感謝しかない」。親子2代で店を切り盛りしてきた男性はそう思いを語る。
ポポロヒロバは、店長を務める加賀雅昭さん(48)の父、故茂治さん(享年74)と母千里さん(74)が1980年にオープンさせた。店名の「ポポロ」はイタリア語で人々の意。多くの客が集まる場になることを願って付けられたという。
まず驚かされるのがメニューの豊富さだ。40ページもある分厚いメニュー表には、主力のハンバーグやハンバーガー、パフェのほか、カレー、オムライス、韓国チキンなど約400種類がずらり。「これでも少なくなった。多い時は600種類ほどあったかな」と、20代半ばから店で働いてきた加賀さんは苦笑する。
メニューの名前も目を引く。例えばパフェには、カシスマカロンやロールケーキなどを載せた「クララが立った」、白玉わらび餅や抹茶が特徴の「はんなりどすえ」、ガトーショコラやかりんとうなどをあしらった「欲望の塊」…。一風変わった命名は、オープン当初からで、加賀さんは「父親に強いこだわりがあった訳ではないと思うけど、エンタメな人で、お客さんに楽しんでもらいたかったのでは」と語る。
加賀さん自身、気軽に立ち寄ってもらえる「大衆食堂」を心掛けるとともに、時代に合わせたメニューを貪欲に導入してきた。近年は「インスタ映え」を念頭に華やかな盛り付けを意識したり、タピオカが話題になればメニューを増やしたり。3000種類以上の組み合わせからトッピングを選べる「デコパ」パフェや、タワーのような高さのバーガーやパフェなど「メガ盛り」も取り入れた。
70席ある店内は広々としていてくつろぎやすく、近くの龍谷大や京都教育大の学生に加え、地域のファミリー層が目立つ。人気歌手になる前の10代の倖田來未さんも通っていたといい、ファンの間で「聖地」として有名になり、倖田さんが食べていたパフェを注文する人が多いという。近くに実家があったお笑いコンビ・ブラックマヨネーズの吉田敬さんらも訪れていた。学生らスタッフも多く、巣立った後に自らの飲食店を構えたり、スタッフ同士で結婚したりしたケースもあった。
だが、開店40周年の節目となる2020年に新型コロナウイルス禍が直撃。学生らの団体客が激減し、営業時間の短縮を余儀なくされた。デリバリーに活路を見いだすなど試行錯誤が続く中、今年2月まで店に立っていた茂治さんが闘病の末、4月に他界。加賀さんは「むちゃくちゃ悩んだ」が、厳しい経営状況などを踏まえ、店を畳むことを決断した。閉店を知った客からは「悲しいです」「おいしい料理ありがとうございました」などと驚きや感謝の声が寄せられている。
店内の一角には今、茂治さんの写真が数点飾られている。店の前で笑みを浮かべる若かりし頃や、著名人と一緒に写った在りし日の姿がフレームに収められている。加賀さんは感慨深げに言う。「今は閉店が迫っていて自分自身の心の整理はできていないけど、ポポロヒロバが父親の人生そのものだったことは間違いない。多くのお客さんに支えていただいたことに尽きる。感謝しています」
ポポロヒロバは木曜定休。営業時間は店のホームページを参照。