ペットの犬猫から、人間よりも高濃度の有害化学物質が…気をつけたい「お部屋の空気」のこと 獣医師が解説

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

人間は誰しも、健康に暮らしたいと思っていることでしょう。あるいは、病気になって初めて、健康に暮らせることの有難みを感じる方もおられます。そして、健康に暮らすためには、できるだけ体内に化学物質を入れないことが大切だと私は考えています。ここでいう化学物質とは、人工的あるいは工業的に合成した物質を指し、天然物に対する概念として用いています。

化学物質は体内に入ると、基本的にこれらは身体の材料ではなく異物であるため、体外に排出しようとします。主に肝臓で代謝されて便や尿、汗、呼気となって出ていきますが、排出できない場合には体内の脂肪などに蓄積されます。そして、この蓄積されたものは、長い年月をかけて健康を害する危険性が指摘されています。

また、化学物質の代謝には、体内にあるビタミン・ミネラルなどの栄養やエネルギーが使われます。本来、体内にあるビタミン・ミネラルなどの栄養は、身体をつくったり、身体を動かしたり、考えたり、さらに栄養を吸収して消化するために使われます。それが、体内に取り込んだ化学物質の代謝のために横取りされてしまうと、肝心な健康な身体づくりや病気に対する抵抗力に充分に利用できないという事態も起こり得ます。

そうであるにもかかわらず、昨今、家庭には様々な化学物質があふれています。除菌剤、消臭剤、防虫剤、洗濯洗剤、食器用洗剤、シャンプー、化粧品、ヘアケア商品…。

これらは、例えば食器を洗剤で洗うと、食器にわずかに洗剤が残ります。そしてその食器に料理をのせたときには、その料理に洗剤成分が移り、最終的にはその料理を食べた人間の腸管に届き、体内に吸収されるのです。あるいは、食器を洗っているときや洗い終わってもなお、洗剤成分の一部は気体となって大気中に拡散します。

したがって、健康のためにとできるだけ食品添加物を避け、野菜も無農薬のものを食べて…と口から入るものに気を遣ったとしても、24時間365日、呼吸によって体内に入る「大気」中の化学物質を避けることは難しいのです。  

米国の環境保護団体ENVIRONMENTAL WORKING GROUPが、人間の体内に蓄積されている有害な化学物質について調査したところ、食べ物や飲み物に気を遣っている人ですら、多くの有害な化学物質が蓄積していたと報告しています。これは、まさしく大気や水などに拡散している有害な化学物質を取り込んだ結果だと考えられます。

これら複数の有害化学物質が体内に蓄積されて長い時間が経過すると、体内で分泌される様々なホルモンの作用を邪魔したり乱したり、発がんに加担したり、慢性的な炎症を引き起こしたりすることが指摘されています。驚くべきことに、同様の検査をペットの犬や猫で実施したところ、人間よりもさらに高濃度の有害化学物質が検出されたと報告されました。具体的には、以下の4つが突出して高濃度に検出されたとのことでした。

①フッ素樹脂・パーフルオロ化合物(テフロン加工の原料で、フライパンやファストフードの包み紙に塗られている)

②フタル酸エステル(プラスチックなどを柔らかくするため、家電製品や壁紙、医療機器に使用されている)

③ポリ臭素化ジフェニルエーテル(カーテン・ソファ・壁紙などを燃えにくくするために使われる難燃剤)

④水銀(石炭などの化石燃料を燃やすことで環境中に拡散している)

いったい、どうしてそのようになってしまうのでしょうか?

室内飼いの犬や猫はその生涯をほぼ室内で過ごします。今どきの室内には、上述したようにフタル酸エステルやポリ臭素化ジフェニルエーテルを含む壁紙やカーテン、防虫剤を塗られたフローリングの床、部屋中に振りかけられる除菌剤などがハウスダストに含まれています。そして、ハウスダストは床や床付近の空気中に蓄積しています。

人間や犬猫などの恒温動物は、一般的には大気よりも体温が高いために、自分の身体の直下にある床周辺の空気が身体に沿って上昇流となります。したがって、呼吸で吸引する空気の1/3は鼻周辺の空気で、2/3は直下の床周辺の空気になると報告されています。となると、人間よりもかなり床付近で過ごしている犬猫(これは赤ちゃんも同様)は、大人の人間よりもハウスダストを吸引してしまうリスクが高いのではないでしょうか。

さらに、犬猫は体内に入った化学物質を代謝する能力が、人間よりも劣っているとされています。特に猫は、複雑な構造をした化学物質を分解する酵素が人間よりも少なく、有害な化学物質を代謝して体外に排出しにくいことが判明しています。

また、大気中に浮遊する化学物質に関しては、呼吸で体内に取り込む他に、体表に付着してしまうものもあります。犬猫の場合は被毛に付着しますが、特に猫はグルーミングをするうちにこれらを舐めとって食べてしまうので、有害な化学物質を口からも摂取してしまうと考えられます。そして、人間は衣類についたこれらの化学物質は、衣類を着替え、その衣類を洗濯することによって、体内に入ってしまう機会を減らすことができますが、犬猫たちは着替えができません。被毛に付着した化学物質の粒子は、被毛の根元にびっしりと溜まっていることが考えられます。

以上の理由で、犬猫は人間よりも体内に有害な化学物質をため込みやすいのだと、私は推測しています。ちなみに、長年少しずつ体内に取り込まれた化学物質によって起こる病気は、人間よりも先に、ネズミや犬猫などの身体の小さい動物で起こることが知られています。もともと犬猫の寿命は人間の数分の一ですが、有害な化学物質によって引き起こされる病気が、人間では発現までに数十年かかるところが犬猫では数年で発現するのです。

具体的な例として、1950年代に熊本県水俣湾周辺で起こった大規模な公害・水俣病を思い出してみましょう。このときも、一番最初に健康被害が出たのが、水俣湾周辺に住む猫たちでした。人間に様々な症状が出る前に、地域の猫たちに謎の病気が流行りました。猫がうまく歩いたり走ったりできずに踊っているかように四肢をばたつかせ、やがて死んでいったことから、当時、「猫踊り病」と呼ばれました。

そして、猫踊り病が流行り出してから数年後に、地域に住む人間にも同様の症状が出てくるようになり、1959年にやっとその原因が判明しました。化学工場などから海や河川に排出されたメチル水銀化合物(有機水銀)が原因物質でした。このメチル水銀化合物を体内に取り込んだ魚などの海産物を人間や猫が食べた続けたことで、神経に異常をきたしたのです。

このように、長年少しずつ体内に取り込まれた化学物質によって起こる病気は、まずはペットの犬猫から発症すると考えられます。あなたの飼っておられる愛しいペット…彼らのために、せめて彼らのいるお部屋の空気はキレイに保つように心がけてみてくださいね。

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