ジャイアントパンダの日本一の大家族が暮らすアドベンチャーワールド(和歌山県西牟婁郡白浜町)で、お母さんの良浜(らうひん)のもとを離れ、4月14日に1歳4カ月でひとり立ちを果たした、メスのジャイアントパンダ、楓浜(ふうひん)。ひとり立ちまでの道のり、そして2頭にどんな変化があったのでしょうか。パンダライター・二木繁美が、担当飼育員の品川友花さんにお話を伺いました。
お引っ越し初日とお披露目
たくさんのファンに見守られながら、4月11日午前11時に最後の親子一緒の公開が終了した良浜と楓浜。翌日の休園日には、楓浜はケージに入って新しく暮らす希少動物繁殖センター・パンダラブへと引っ越していきました。これまでにも、休園日や引っ越しの練習で1日中顔を合わせない日もあったため、離れた後も、2頭はいつも通り落ち着いた様子でした。
パンダラブに移った楓浜は、お気に入りの場所で寝てしまうくらいの余裕も見せていました。
ひとり立ち後初のお披露目では、門出を祝って、お姉ちゃんたちの名前を連想させる、リボンや虹のモチーフの氷が贈られました。「プレゼントには“ようこそ”という気持ちと、お姉ちゃんたちのように元気で大きく成長して欲しいという思いが込められています」と、品川さん。こうして、ひとり立ちへの第一歩を踏み出したのです。
パンダのひとり立ちとは?
パンダはもともと群れを作らずに単独で暮らす動物です。ほかのパンダと暮らすのは、きょうだいとお母さんとのみで、それも1歳から2歳頃までです。
品川さん曰く「ひとり立ちのタイミングについては、いつも母子の状況を総合して判断しています」と、この日齢で離すという決まりはなく、毎回、それぞれの成長にあわせて判断しているそうです。
同パークでは親子の安全を最優先に考え、段階的に子のひとり立ちをサポートしています。逃げ場のない場所で子パンダがケガをしないように、慎重にタイミングを見極めながら、徐々に母子を離してひとり立ちさせるのです。母子の別れは必ずやって来ます。ひとり立ちは、一人前のパンダとして生きていくための大切な儀式なのです。
ひとり立ちまでの道のり
ひとり立ちのためには、事前の準備が大事です。楓浜の準備は、2022年の2月下旬から始められました。品川さんは、「休園日にはパンダラブへ連れて行き、獣舎や運動場に慣らす練習をしました」と過程を説明してくれました。
母親の良浜との同居の時間も少しずつ減らして、お互いの反応を観察。ひとり立ち前には、良浜が去った入り口を気にする楓浜の姿も。ついつい、まだお母さんが恋しいのかなと想像してしまいますが、好奇心旺盛な楓浜は、部屋の中の様子が気になっていたようです。
「ひとり立ちに備えて人工乳の量を増やして、リンゴやニンジンなどのおやつ量も少しずつ増やしていきました」と、品川さん。人工乳への切り替えは、良浜の母乳の出を減らすためにも大切なことなのです。
お姉ちゃんたちとご対面!
パンダラブで暮らすためには、同じくパンダラブにいるお姉ちゃんパンダたちとの顔合わせも必要です。「休園日に小さいケージに楓浜を入れて、お姉ちゃんパンダの桜浜(おうひん)・桃浜(とうひん)の近くまで行きました。2頭はじっと楓浜を見たり、鳴いたりしてアプローチするのに、楓浜は鳴き返しもせず、目も合わさず……変な方向を向いたり、その場でじっと伏せたりしていましたね」。
楓浜のお姉ちゃんにあたる、彩浜(さいひん)や結浜(ゆいひん)が、同じく桜浜・桃浜と対面したときは、鳴き返したり、興味を持って遊びに行こうとするような仕草を見せていたそうです。お姉ちゃんたちに興味がないのか、それとも争いを避けようとしているのか。品川さんいわく「自立心が高い」という楓浜。なかなかクールな対応ですね。
パンダラブ引っ越しの初日には、結浜のケージの前を通ったそうですが、お互い静かにじっと見つめ合っていたそうです。じつは楓浜と結浜の頭には、似たような毛のとんがりがあります。何か姉妹で感じるものがあったのでしょうか……。
ひとり立ち後の親子は?
ひとり立ちから約1週間後に様子を伺うと、パンダラブへと引っ越した楓浜はプレゼントでもらったタイヤで遊んだり、竹を食べる量が増えてきたりして、しっかりと環境になじんでいる様子です。
「新しい場所に移ると、最初は落ち着かなくて、食べたり飲んだりできないこともあるのですが、楓浜の場合、慣らし練習の初日に人工乳を飲んだり、おやつを食べたりしていました」。意外と順応性が高い楓浜なのでした。
いっぽう良浜は、最初は落ち着かない様子を見せたこともありましたが、少し経つと楓浜がいない生活にも慣れてきたようでした。
一見するとゴキゲン斜めみたいな姿で部屋をウロウロ歩くこともあるそうですが、これは竹が気にいらないから。今の時期はタケノコに栄養をとられて、竹の味が落ちるのです。その分、今年は早めにタケノコが入ってきたようなので、子育てをがんばった良浜にも、じっくりと味わってもらいたいですね。
楓浜ってどんなパンダ?
最後に、品川さんから見て、楓浜はどんなパンダなのか聞いて見ました。「好奇心旺盛ですね。でも、お世話をしているときに、掃除用具やスタッフに対して、あまりじゃれてこなくて。じゃれる力加減もソフトで、優しい性格なのかなという印象です」。
さらに「出産に関しても、スタッフ一同思い出深いパンダです」と教えてくれました。楓浜は2020年11月22日生まれ。コロナ禍での出産となり、中国人スタッフが来日できず、交配から出産までを、初めて日本人スタッフのみで行ったパンダでもあるのです。
コロナ禍での休園などもあり、楓浜の様子は毎日オンライン上で配信されつつ、パンダファンが温かく見守ってきました。「楓浜のひとり立ち前には、ここまで元気に育ってくれてよかったなあというのと、こんなに成長したんだっていう感慨深い思いでいっぱいでした」と、品川さん。
母親の良浜と、成長を見守ってきたさまざまな人たちに、たっぷりと愛情をもらって、無事にひとり立ちできた楓浜。いままで良浜から受けた愛情を心の糧に、このまま元気で大きくなって欲しいですね。
【楓浜のパンダラブでの公開について】
時間:10:00~16:00
場所:希少動物繫殖センター「パンダラブ」
※動物の体調や天候などにより変更する場合があります。
アドベンチャーワールド公式:https://www.aws-s.com/