「20年前に撮ったビデオカメラと写真を引っぱり出しコロコロ遊んで元気いっぱいだった頃のタンタンを投稿しています」。今や“神戸のお嬢様”とも呼ばれる神戸市立王子動物園のジャイアントパンダ、タンタン(26歳メス)の5、6歳頃の動画がツイートされ、「こんなにお転婆さんだったとは」「この頃に出会いたかった」「見ていて涙が出ます」とファンから感謝の声が連なっています。その思いを受け止め丁寧に返信するのは、動物園の近くに住んで35年の槿(あさがお)さん。大切な思い出をシェアする理由、再整備へ向かう王子動物園への思いを聞きました。
公開5日目で初対面、木登りで枝を何本も折り…?
-どこの子パンダかと思ったら、タンタン!びっくりです
「2000年夏にコウコウとタンタンが来園し公開5日目に初めて会いに行きました。コウコウは天真爛漫で、ヤンチャで、やることがとっても面白くて。タンタンは、お庭に出るなり走り出したり、植えてある木の全部に登ったり、とにかく元気。太めの枝がいくつも折れるほどで、落ちるのは見たことなかったですが、大丈夫だったのかな(笑)」
-“毎日タンタン”だったのですね
「子どもが学校に行っている間にビデオカメラを携え動物園へ通いました。『こんなにあどけなくて可愛くて、ちゃんと心があって、遊ぶ時もとてもよく考えて行動しているタンタンとコウコウを多くの人に見ていただきたい』と思い、ホームページを作り写真や動画を公開していました。当時のネット環境は1MB程度の動画をアップロードするのがやっとだったんですよ」
-5、6歳くらいのパンダがこんなにも活発なのだと驚きました
「もちろん、いつもこんな風に動いていたわけではなく、待って待って、じーっと待って撮影できたものです。何にも撮れなかったな、という日もたくさんありました。ほかにパンダを撮っている方はいらっしゃらなかったと思います」
-それから20年。あらためて動画や写真を公開したのは?
「中国帰国が発表されたのがきっかけです。タンタンにもこんなにお転婆な時代があったことをみなさんに見ていただけたらと。自分でもいつでも見たいと思いました。2020年10月からインスタグラム、YouTubeで写真・動画を公開。ツイッターは動画を短く編集し直して今年11月から。当時の撮影動画はテープからデジタルに変換する必要があり、機材をフリマアプリで購入。編集作業は時間がかかり大変でしたが、室内展示場のガラスに自分や家族の姿が写り込んでいるのを懐かしく思いながらの作業でした」
辛い出来事で会えない日も。今では3世代で
タンタンの赤ちゃんが亡くなったり、“2代目コウコウ”との突然の別れも。「飼育員さんにどうお声がけしていいか分からなくて」タンタンに会いに行くのは長いことお休みしていたという槿さん。最近は、お孫さんといっしょに親子3世代で来園することもあるそう。
家族の思い出もたくさん詰まった王子動物園。今、動き出している再整備は、動物たちのためになるはず、と期待しています。ずっと以前から、「『動物園では動物を見てほしい』『動物園に遊園地は不要』と思っています」と槿さん。「今までの思い出は心の中にしまい、動物園というものが今後どうあるべきかを考え、世界中から人が訪れる『世界一の動物園に』と願っています。何よりも動物が幸せであってほしい。子どもも大人も動物への知識を持つことが、地球環境を守ることにもつながるのではないでしょうか」と話します。
来園以来、見守り、ともに時を重ねたタンタンは高齢となり、今は病気の治療を頑張りながら、生きる姿を見せてくれています。
「タンタンが神戸に来て21年。パンダ舎の前はいつも笑顔でいっぱいで、幸せな時間が流れていました。元気いっぱいな姿に、阪神・淡路大震災後の大変さも忘れてたくさん笑わせてもらい、感謝の気持ちでいっぱい。今は、ゆっくり穏やかに養生してほしいです」
槿さんの、そしてタンタンを見つめる全ての市民やファンの、思いです。
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神戸新聞の公式YouTubeチャンネルでは、12月25日午後6時から「神戸新聞フェス2021」をライブ配信。午後9~10時には王子動物園の園長や飼育員とタンタンの2021年をたっぷりの動画で振り返ります。