「ふしぎの海のナディア」や「エヴァンゲリオン」シリーズ、「シン・ゴジラ」などの作品で知られる庵野秀明さんの幼少期からのキャリアを通覧し、昭和から現代まで脈々と続く日本の映像文化の魅力に触れることができる「庵野秀明展」が4月、大阪の「あべのハルカス美術館」で始まりました。現在、「シン・ウルトラマン」(企画・脚本)や「シン・仮面ライダー」(監督・脚本)の公開が控える庵野さんは、これまでどんな作品に感銘を受け、どんな作品を世に送り出してきたのか。社会現象を巻き起こした作品の企画書や肉筆の原画、学生時代の自主映画、果ては中高生時代の油彩画、同人誌など、貴重な資料の数々を通じて、彼のあまりにも巨大かつ特異な全貌を紐解いていきます。
大阪での「庵野秀明展」(2022年4月16日〜6月19日)は、東京会場、大分会場に続く3カ所目。2022年7月8日からは、庵野さんの出身地である山口県での開催が予定されています。
アニメ、特撮への強い憧憬
展示は「庵野秀明をつくったもの」「庵野秀明がつくったもの」「そして、これからつくるもの」という大きく3つのコンセプトで構成。「庵野秀明をつくったもの」エリアには幼少期の庵野さんが心を奪われた1960〜70年代のアニメや特撮作品の映像、原画、ミニチュア、実際に当時の撮影で使われた小道具などが並び、庵野さんの“原点”を垣間見ることができます。庵野さんが「機械好き」に目覚めるきっかけになったという、両親が仕事で使っていた足踏みミシンの現物まで展示する徹底ぶりに主催者の本気を感じます。
「庵野秀明がつくったもの」では、ナディアやエヴァはもちろん、中高生の頃に描いた油彩画、高校や大阪芸大時代の自主映画、そして庵野さんが一躍注目を集めることになった日本SF大会「DAICON Ⅲ」(1981年)と「DAICON Ⅳ」(1983年)のオープニングアニメーションの映像、原画などを一挙に紹介。アマチュアにしてすでに庵野さんの天才性の片鱗が窺える怒涛の展示で、見る人を圧倒します。
庵野さんが宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」(1984年)で巨神兵のシーンを担当したのは有名な話ですが、その原画用下描き、制作時の落書きやメモなどのほか、宮崎監督が庵野さんを叱咤激励した落書き(「はやくカットあげろ」「早く!!いそげ おそい」「仕事しろ仕事」など)も見ることができます。
文字デザインまで徹底して作り込んだエヴァ
1995年にTVシリーズが始まった「新世紀エヴァンゲリオン」のコーナーでは、エヴァが鬼をイメージして造形されていた企画書用イメージ画、使徒のイメージ画や設定、オープニングの絵コンテ、各話タイトルの文字デザインなどを一挙公開。プレス向けのプレイベントでは、カラーの文化事業担当学芸員である三好寛さんと、エヴァ関連の版権を管理するグラウンドワークス代表取締役の神村靖宏さんが案内役を務めたのですが、当時ガイナックスでエヴァの各話タイトル文字デザインを担当したという神村さんは「(庵野さんは)文字の大きさや配置など、小さな修正を延々繰り返すんです。1話で10回くらいやり直すのは当たり前でした。作品の可能性を貪欲に追求し、クオリティを上げるためには、とにかく精力を尽くす人です」と明かしていました。
「シン・ゴジラ」(2016年)、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021年)を経て、会場では2022年5月13日公開予定の「シン・ウルトラマン」、そして2023年公開予定の「シン・仮面ライダー」と、庵野さんの「これからつくるもの」の資料も一部、紹介されています。少年時代から強い憧憬を抱いてきたゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーそれぞれの原点に立ち返りながら、全く新しいエンタメ作品を生み出していく庵野さんの“円環”を成すような歩みを通覧できる展示会。三好さんは「庵野秀明という森に迷い込んでみてほしい」と話しています。
アニメ、特撮文化を未来へつなげる取り組みも
さらに、庵野さんがアニメや特撮の散逸しがちな資料を保全するために始めたNPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の活動も、特筆すべきものがあります。「庵野秀明展」で昔のアニメや特撮に関する資料を展示することができたのも、このATACの存在が大きかったとか。自分を形成してきた映像文化に対する「恩返し」と、未来の新たな創造につなげるための庵野さんの取り組みは、どのように実を結んでいくのでしょうか。
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■「庵野秀明展」大阪会場の概要■
会場:あべのハルカス美術館
会期:2022年4月16日〜6月19日(4月18日、5月9日は休館)
観覧料:当日一般1900円、大高生1400円、中小生500円など