「酸欠になりそうなほど笑った」…内容ゼロ!ただ猫がいるだけの絵本が話題 著者は長新太を崇拝するお笑い芸人

黒川 裕生 黒川 裕生

猫がいるのかいないのか…本当にただそれだけの絵本『ねこいる!』が今年2月にポプラ社から発売され、「子供が大爆笑」「酸欠になりそうなほど笑い転げてた」とSNSなどでも反響を呼んでいます。2週間余りで重版が決まったこの絵本、作者はたなかひかるさん。お笑い芸人でありながら、ギャグ漫画『サラリーマン山崎シゲル』をヒットさせたほか、2019年に発表した初の絵本『ぱんつさん』では第25回日本絵本賞に輝くなど、多才ぶりを発揮しているたなかさんに、絵本にかける思いなどを伺いました。

たなかさんは、サンドウィッチマンやM-1ファイナリストのランジャタイ、R-1で優勝したお見送り芸人しんいちなどを擁する事務所グレープカンパニー所属。ピンや「田中上野」というユニットで芸人として活動するかたわら、SNSに投稿していたギャグ漫画『サラリーマン山崎シゲル』が人気となり、漫画家としても知られるように。2019年には絵本も発表し、さらに表現の幅を広げています。

「面白いと思うアイデアを形にする際に、漫才やコントでは伝わりにくく、たまに息苦しさを感じることがあったんです」と語るたなかさん。「絵本は漫画ともまた少し違って、『なんか面白い』『なんかいい感じ』というおぼろげな感覚を、面倒な説明抜きで作品にできるのが大きな魅力。お笑い以外でも発想をアウトプットできるようになったことで、ずいぶん楽になりました」

『ねこいる!』は、たなかさんにとって2冊目の絵本。内容は極めてシンプルで、「ねこいる?」の問いかけの後、バケットやリコーダーなどの思わぬところから、ただただ猫が「ババーン!」と現れるだけ。むしろ「内容なんてない」と言い切っても差し支えないかもしれませんが、終盤の畳み掛けで炸裂する異常なテンポと迫力には、子供たちも大喜びすること請け合いです。

「自分が作る絵本は、お笑いのフリップ芸に近いものがあると思います。だからこそ、僕のように絵本を描いたら強みを発揮できる芸人さんが他にも結構いるのではないかなと。正直、あまり気づかれないようにしたいですね…(笑)」

たなかさんは「絵本作家に憧れてなったわけではなく、ただ変なものを作りたかっただけ」と言いますが、実は小さい頃から絵本や本にあふれた家庭で育った“絵本サラブレッド”。特にお気に入りなのは長新太、かこさとしで、ジャズピアニストの山下洋輔とモダンアートの鬼才・元永定正による『もけらもけら』もフェイバリットのひとつだそうです。

「長新太さんなんて、幼心に『なんやこの人』と感じてはいましたが、大人になってあらためて読んだら、ゾッとするくらいヤバいですよね。ピンク色で殴り描きしたような『ころころにゃーん』なんて、鬼気迫るものがありますもん。『ねこいる!』の激しさは、長新太さんの影響かもしれません」

今後も絵本作りは続けていくというたなかさん。「教育的だったり、何かの役に立ったりするような話ではなく、『なんやこれ!?』と思われるような作品を作りたいです」と話します。

「絵本って、成長しても心の中にずっと残るものじゃないですか。子供が人格を形成していく最初の段階に、絵本を通じて『なんか面白いな』という刺激を与えることができたら嬉しいですね。芸歴も20年くらいになりますから、面白いと思うことをこれまで散々こねくり回してきましたが、シンプルに人を驚かせたり、楽しませたりする“基本”に立ち返ったような気持ちで取り組んでいます」

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『ねこいる!』32ページ、税込1595円。

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2900443.html

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