やはり指さし確認は有効!右利きが左利きよりも注意力アップ 東北大の研究者に聞いた

竹内 章 竹内 章

ネットの人気キャラ現場猫の決めポーズといえば、「ヨシ!」と指さし確認ですが、手を添えた物体には、意識して向けられる注意とは別ルートの注意効果があることが東北大学の研究で分かりました。右利きの人と左利きの人では、手を添えることで上がる注意効果に差があることも判明。一見単純な動作のようで、ヒューマンエラーの発生率を大幅に下げることが示されている奥深い指さし確認について、研究者に聞きました。

東北大学電気通信研究所の塩入諭教授(視覚科学)が発表。論文はオープンアクセス科学誌「Cerebral Cortex Communication」に掲載されました。

 指さし確認は、製造業に限らず工事や車両点検など多くの現場で行われています。安全チェックのほかにも、作業手順の確認や工具や部品の種類の確認など、さまざまな作業で確認が実施されています。指さし確認の効果検定実験では、一連の動作を行った場合の作業ミスの発生率は、行わなかった場合と比べて約6分の1になるという結果もあります。注意効果は、対象に意識して向ける「トップダウン注意」と対象の明るさなど目立つ刺激に向けられる「ボトムアップ注意」があります。また手の周りなどの刺激に対する注意効果もありますが、関連は不明でした。

東北大学の実験は、実験参加者は、赤い棒が高速で回転するディスプレーの裏側に右手または左手を置き、合図の瞬間に「棒の角度」を答えるというもの。実験参加者は自分の手を直接見ることはできません。回転する棒とディスプレー裏の手の位置が近いとき、離れたときで調べた結果、前者の回答が正確という結果が出ました。手を添えることで生じる注意は、実際に自分の手が見えない状況でも発生していることになり、視覚と触覚の情報を統合する脳の処理過程の効果であるといえます。また、トップダウン注意は常に視覚刺激に向けられる条件で、手が近くにある場合に遠くにある場合よりも大きな注意効果が得られることから、意識的に向ける注意とは別のメカニズムの働きであることがわかりました。

ー指さし確認についてはこれまでどのような知見が発表されているのでしょうか

「指さし確認そのものの研究は、心理学あるいはヒューマンエラーの研究だと思います。また様々な現場での経験的な知識に基づく理解も多いのではないでしょうか。認知科学、脳科学的な視点でいうと、複合感覚(マルチモーダル)の統合過程や複合感覚注意の問題と捉えることができます。手の位置に目立つ視覚刺激を与えると、その手に対する触覚刺激への反応が促進されることが知られています」

ー今回の発表の手の周りの注意効果については

「手の位置が実際と異なって知覚される錯覚の影響があるとの研究成果も私たちは学会発表しています。仮想現実環境で、実際の手の位置と見かけ上の手の位置をずらすことで、手の位置が違って感じられますが、手の周りの注意効果もずれた位置に生じます。また、手を動かす場合は、その動きのゴール位置に注意効果が生じることも見出しています」

ー右利きの人と左利きの人で、手を添えることで上がる注意力に差があったことは、何を示唆するのでしょうか

 「利き手による違いは予想していなかった発見です。利き手と脳機能の間には何らかの関連がある可能性は指摘されていますが、明確なことはわかっていません。今回の手の周囲の注意効果の利き手による違いも、左利きの原因と脳機能の関連である可能性があります。脳波による注意効果の計測からは、左利き被験者の手の周りの注意効果は、トップダウン注意の影響である可能性を示唆していますが、現状では推測以上のことはわからないため、更なる研究が必要です」

ー今回の実験結果を踏まえ、理想的な指さし確認は定義できるのでしょうか

 「より直接的に関連するのは、指さしながら文章を読むような場合でしょうか。今回の報告は、指さし確認に対する科学的な根拠を与えたことになります。意図的に十分な注意を向けている場合でも、手の位置がそばである場合に注意効果が大きいとの結果であるため、手の位置を気にしないことによる不利益もあると思われます。理想的とまでは言えませんが、右利きであれば右手を使うことが有効とは言えます」

ー研究や日常生活の中で、指さし確認を使う場面はありますか

 「特別なことはしていませんが、文章の内容がなかなか頭に入ってこない場合、指やカーソルで位置を示したり、文書をハイライトしたりすることはあります」

ものづくりに限らずあらゆる仕事の現場で求められる「ミスゼロ」。「やっちまった」と頭を抱える人が少しでも減るよう、注意効果の研究の進展が期待されます。

東北大学のリリースはこちら→https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20220224_01web_hand.pdf

掲載された論文はこちら→https://academic.oup.com/cercorcomms/article/3/1/tgac005/6523049?login=false

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