大阪市に住むNさんは健康のために夫婦でウォーキングを始めた頃、近隣の公園にたくさんの地域猫が暮らしていることに気がついた。そんな折、外で暮らす猫が虐待を受けているという話を小耳にはさんだ。
「見回りにもなるかな?」という気持ちで、自宅から少し離れた公園まで歩くようになった。大阪市の条例では猫への餌やり行為後の清掃が義務付けられている一方で、餌やり行為そのものは規制されていないので、猫用のフードを持参するようになったそうだ。
最初はウォーキングがメインだったが、そのうち「猫がご飯を食べられているのか、怪我はしてないか」などが気になり始め、気がつけばほぼ毎日通うようになっていた。
Nさんは以前から地域猫活動(公園猫適正管理推進サポーター)に興味はあったものの、時間が合わず参加していなかったそう。しかし、見回りを続けるうちに体力的にも限界を感じていた。「個人で活動するよりも公園猫サポーターになった方がよいのでは?」と思い、夫に相談したところ「やってみたらいいんちゃう?」と、背中を押してくれた。
公園猫適正管理推進サポーターとして地域猫活動を始めたNさん。夫婦で見回りウォーキングをしていた時から同じ顔触れの猫たちが、ほぼ毎回ご飯を食べにくるようになっていた。
ある日、公園近くの道路を自転車で走行していると、いつもご飯を食べにくる一番人馴れしている黒猫を見つけた。声をかけたところ、小さな体で自転車の脇をトコトコと、小走りで公園まで並走してついてきてくれた。
Nさんは「私の事を覚えてくれているんだ!」と、とても愛おしく思ったそうだ。それと同時に交通量が多く、もし交通事故でケガをしたらと思うと、いたたまれない気持ちになった。
Nさんは2020年に当団体から譲渡した茶白のオス猫「トラノスケ」と暮らしている。ちょうどこの頃「もう1匹迎えようか」と考えていたNさんは、あの黒猫が事故にでも遭ったら保護しなかったことを後悔するだろうと思い、家族として迎え入れようと決意したそうだ。
公園猫適正管理推進サポーターの先輩に相談し、慎重に準備を進めていった。なぜ、慎重になったかといえば、保護団体から譲渡してもらう時のように、トライアルのお試しというわけにはいかないからである。約1カ月ほど慎重に話をすすめ、先輩に手助けしてもらい、無事に黒猫を迎え入れることになった。
名前は「まある」と命名した。公園では、しっぽが丸いので「まるちゃん」と呼ばれていた。3年以上もの間、地域の方に愛されていたので「まる」という呼び名を活かした。
地域猫を保護してみて、感じたこと
まあるが家に来てすぐの頃は、病気の感染を予防するため、寝室にケージを置き、ウイルスの潜伏期間をトラノスケと隔離して過ごした。緊張から初めはご飯を食べなかったが、好きなものを用意すると、夜中にこっそり食べてくれ、ホッとしたそう。またトイレは初日から一度も失敗せず「お利口さんだね」と一安心していた。
しかし、初日から夜鳴きをし、日に日に声が大きくなるので眠れない日々が続いた。先輩や猫友に相談し、昼に遊んだり、安眠の音楽をかけたりと色々な対策を講じたが、夜鳴きは収まることはなかった。
まあるを保護して5日目、睡眠不足により限界を感じ始めたころ、先輩の言葉がNさんを救ってくれた。
「人間ファーストで大丈夫」
この言葉にとても心が軽くなった。というのもNさんはネットなどで野良猫を保護する際の注意点や、体験談などを調べて慎重の上にも慎重に準備をしていたからだった。
「怒ってはいけない、一度保護をしたらもう元に戻すことはできないのだから」と、気負いすぎていたそうだ。その後、まあるは寝室を出てリビングデビューをしたことにより、夜鳴きも徐々に落ち着いていった。
一方、トラノスケはというと、少し食欲が落ち、まあるの存在に戸惑っているようだった。しかし、数日が経ったある日の夜、まあるが恐る恐るトラノスケに挨拶をしに行く姿を目撃。トラノスケは元々多くの猫と暮らしていた経験から猫慣れしており、まあるのことをすんなり受け入れてくれたそうだ。
トラノスケは先輩猫として、ご飯や心地よい場所をまあるに譲ってあげたり「食卓に上るのはNGニャ」など家の中のルールを教えてくれているようでもある。時々取っ組み合いの最中に、まあるが鳴きながら威嚇すると、トラノスケが「やられたぁ~」と言わんばかりにコロンと寝転ぶ姿が何とも愛らしく、クスッと笑わせてくれるそうだ。
Nさんは地域猫を保護してみて、感じたことがあるという。
「地域猫を迎える際、トライアルがないので猫同士の相性などが大変心配でしたが、家に迎えて本当に良かったです。まあるは外で暮らしていたとは思えないほど、抱っこや膝の上が好きですし、引っかかれたことは一度もないです。ただ、家に慣れるまでは夜鳴きやいたずらもあったので、保護活動されている方はすごいなと改めて感じました」
今後については「まだ2匹で寄り添って眠ることはありませんが、いつかお互いに毛づくろいをしたり、猫団子が見られたら良いなと思っています」と、嬉しそうに語ってくれた。
Nさんは他にも自分にできる事を模索しながら、今でもまあるが暮らしていた公園での地域猫活動を続けている。