「ゆ」の前掛けがお似合いのハチワレの猫「トタンくん」は、滋賀県大津市にある昔懐かしい銭湯「都湯-ZEZE-」の番頭・原さんが保護した猫です。
銭湯に時折現れるレア猫ですが、実は12月10日発売された漫画『みゃーこ湯のトタンくん』(ミシマ社・スケラッコ著)の主人公に抜擢されました。猫の世界に迷い込んだ原さんが「大将」とあおぐトタンくんに拾われ、ともに過ごす毎日が物語となっています。
SNSでは、「癒される」「あったかい湯に浸かったようなポカポカ感」と心温まる人々が続出。なかには、本当にトタンくんが存在するのか疑問を持った人も。そこで、そんなトタン君や「都湯-ZEZE-」について、原さんに話をうかがいました。
今やすっかり猫の“下僕”です
――ハチワレがとてもキレイな猫ちゃんですね。原さんはトタン君といつ頃出会ったのでしょうか。
2019年の元旦に、「都湯-ZEZE-」の屋根で野良猫の赤ちゃんを数匹保護しました。そのうちの1匹が「トタン君」です。トタン君以外は引き取っていただいたのですが、うちのお客さんの保護猫団体の方と、獣医さんから「困った時は私たちがサポートするから1匹育ててみたら」と促されて飼うことになりました。
ちなみに獣医さんの見立てだと、トタン君の誕生日が2018年11月17日だそうです。この日は「都湯-ZEZE-」の開業日だったので、鳥肌が立ちましたね。都湯と一緒に生まれたような子やん!って。
――運命的な出会いだったのですね!もともと猫はお好きだったのでしょうか。
実は、引き取るまで犬派だったので、猫は初めてでした。飼い始めたらトタン君の魅力にはまってしまって、今ではすっかり“下僕”です(笑)。
――まるでコミックの設定と同じ(笑)。実際に、お店の看板猫なのでしょうか。
都湯の入居条件ではペット禁止になっているので、近所に部屋を借りて一緒に暮らしています。たまに都湯にも顔を出していますよ。もし出会えたらラッキー、です!
徐々に盛り上がった銭湯
――では「都湯-ZEZE-」について教えてください。
2016年に閉店して、2018年11月17日に僕がリニューアルオープンしました。2018年に新調した薪専用の釜で地下水を沸かした風呂と、全国のサウナマニアからも好評の高温サウナ、かけ流しの水風呂、電気風呂が自慢です。
都湯を始めたきっかけは、京都の「サウナの梅湯」(清水五条)を経営している銭湯活動家の湊三次郎さんとの出会いがあったからです。僕も湊さんのような活動をしたいと強く思っていたところ、彼が2号店として経営を考えていた都湯で「よかったら勉強してみませんか」と任せていただけることになり、大阪から引っ越してきました。
オープン当初は1日40人ほどのお客様でしたが、「コーヒー湯」や「薬湯」のほか、サウナ愛好家向けのイベントへの出店など、独自の企画を行っていくうちに常連さんが増えました。今は1日平均110人のお客様に利用いただいています。
廃業を救った!? トタン君漫画化
――この作品は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。
飲みの席で、僕が冗談のつもりで話したことから始まりました。出版社「ミシマ社」さんとの2019年の忘年会で、編集者の新居さんと、僕と同じく保護猫を飼うことになった漫画家のスケラッコさんとで、ネコの話で盛り上がったんです。
その時に、スケラッコさんがサラッと描いてくださったトタン君の似顔絵がとてもかわいかったので「それじゃあトタン君をモデルにスケラッコさんに描いてもらって、ミシマ社さんがプロデュースでぜひお願いします(笑)」と何気なく話したら、2020年4月頃に漫画化したいとのお話をいただき、めちゃくちゃびっくりしました(笑)。
――その頃は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために、緊急事態宣言が発令されていましたね。
銭湯は休業対象ではなかったのですが、湊さんと話し合って自主休業としました。実はこの時、コロナ禍の状勢に心が折れてしまって、いつ辞めると言おうか考えていたんです。諦めの感覚に近かったですね。
そんな時の漫画化だったので、嬉しい気持ちよりも「続けてもええよ」って背中を押してもらえたような気がして。力をもらえたというか。この話がなければ、僕は都湯をたたんで滋賀から引き上げていたかもしれません。だから、今の僕があるのはご縁やと思っています。
――銭湯といえば年配客のイメージでしたが、20〜30代のお客さんもよく見かけますね。
2020年の8月頃から特に若い子が増えました。今彼らの間でサウナがブームなんですが、検索サイトでうちのサウナを知ったお客様がたくさん来てくれるようになったことが大きいですね。
あとはSNSの宣伝や、YouTubeの動画配信をご覧いただいて、尼崎や神戸からも来てくれたりして。観光スポットのような感覚なのかな、と思っています。 もちろん年配のお客様もたくさんいらっしゃいます。毎日来てくださる方が数日来られないと「最近こーへんかったけど、元気やった?」といったように生存確認するようにしています。
今後は『みゃーこ湯のトタン君』のファン層にもぜひお越しいただきたいですね。
「都湯-ZEZE-」の魅力を常連客にも聞きました
取材中も、ひっきりなしに老若男女が入店する「都湯-ZEZE-」。その魅力は何なのか、常連のお客様にも聞きました。
子どもの頃から30年前以上通っている、南草津の焼き肉店店主の山下さんは「リニューアル後に来てみたら若い子が随分来やすい雰囲気に変わっていた。年齢層は若くなったけど、昔ながらの本当の裸の付き合いができる」。
また20代の男性は、週に3、4回通い続けているそうで「前はスーパー銭湯に行っていたけど、今は断然こっち。お風呂に入りに来るだけじゃなく、来たら誰かと会えるし話ができるのが気に入っている」と話してくれました。
今や銭湯は斜陽産業とも言われていますが、ここはトタン君が来てから「招き猫」のようにお客さまも増加。昔ながらのコミュニケーションも楽しめ、心も体も温かい気分に浸ることができそうです。
営業時間は14時〜24時。料金は中学生以上450円、6〜12歳150円、6歳未満100円、サウナ利用は別途100円。
■都湯-ZEZE-Twitter https://twitter.com/miyakoyu_zeze
■都湯-ZEZE-YouTube https://www.youtube.com/user/Topofdonuts
■ミシマ社『みゃーこ湯のトタンくん』 https://www.mishimaga.com/books/totan/002571.html
「都湯-ZEZE-」
住所:滋賀県大津市馬場3-12-21
営業時間:14:00~24:00
料金:料金は中学生以上450円、6〜12歳150円、6歳未満100円、サウナ利用は別途100円
電話:090-3820-1126