大阪市大正区の小林地域にある、デイリーヤマザキ大正店。この店舗には、「どこにでもあるコンビニ」とは違うユニークな特徴がある。それは「沖縄でしか買えない商品」がたくさん売られていることだ。沖縄そば、サーターアンダギー、ちんすこう、黒糖、ブルーシールアイスクリーム…。商品棚を見ると、まるで沖縄物産展のよう。これは一体?
同店のオーナー、宇都宮初恵さんに話を伺った。
店内に並ぶ沖縄商品は全て、大正店独自のルートから仕入れたものだという。「大正区の小林や北恩加島、平尾地域に沖縄料理店が多いので、そこから仕入れることが多いですね。あとは、沖縄の物産展や親戚の店など、ツテはいろいろあるんです」
セレクトしているのは、主に「生活に密着している食品」。イリチーや太もずく、ソーキ汁、かつおの削り節など、どれも沖縄では普段から食卓に並べられるものばかりだ。さらには豚みそなどの調味料も取り揃える。シーズン限定でゴーヤや海ぶどうなども登場するが、あくまでも日持ちするパッケージ商品がメインという。
「いちコンビニが、ここまで仕入れに力を入れることはなかなかありません」と宇都宮さんは笑う。「商品の種類が多すぎて、とにかく伝票を書くのが大変。おまけにコンビニは在庫も合わせないといけないし、万引きにも気をつけないといけないし、本当に忙しくて(笑)。それでも、やはりたくさんのお客様の喜ぶ顔を見たら、嬉しくなるんです」
宇都宮さんがこれだけ頑張るのには、理由がある。それは、この「大正区」という稀有な土地柄と、宇都宮さん自身のルーツだ。宇都宮さんは大正区で生まれ育ったが、両親が沖縄出身。そして、大正区には同じような背景を持った住民が多い。
その歴史は第一次世界大戦後まで遡る。当時の沖縄は不景気で、宇都宮さんの親世代である出稼ぎ労働者が多く他府県に流出。中でも多くの人が移り住んだ地域のひとつが、工場地帯で雇用口も多かったここ大正区だ。その結果、今でも大正区民の4人に1人は沖縄にルーツがあると言われている。
移住して来た人たちは、当時から手を取り合い、互いに助け合って生きてきた。そこで育まれた濃いネットワークは、今も続いているという。宇都宮さんと同じように大正区で生まれ育ったが、「自分の故郷は沖縄だ」と考えている人は少なくない。そうした人たちが、デイリーヤマザキ大正店にたくさん集まってくるのだ。
「この周辺は沖縄系のお店がたくさんあります。その流れで、『ここにもいっぱい沖縄の料理があるやん』と来てくれる人が多いんです。オープン当初はいたって普通のコンビニでしたが、沖縄の商品が増えるたびに、喜ぶ声が増えました。そうして今に至ります」
今や近隣住民だけでなく、他府県から訪れる人も。「コロナ禍で気軽に旅行に行けないので、『家で沖縄料理を楽しみたい』という方が来られるんです」と宇都宮さん。そんな彼女が何より大切にしているのは、やはり「沖縄」の絆で結ばれた地元の人たちだという。
「いつも地域の皆さんのそばにいられるよう、これからも楽しく長く営業を続けていきたいです」