「ある朝目覚めたら妻が泣いていた」。そんな不穏な場面から始まる夫と妻の漫画が読者を増やしています。コロナ禍のくらしの中で心が壊れた妻。そんな彼女に夫が持ち掛けたのは空想旅行でした。どうにもならない悩みや苦しみを抱え、寄り添う二人。声高に主張しない漫画が描く静かな男女の姿が共感を集めています。
「コロナが明けたらしたいこと」などの作品がある漫画家うえはらけいたさんが自身のアカウント(@ueharakeita)で公開した漫画。今年の10月にリリースされた森山直太朗さんの新曲『カク云ウボクモ』のプロモーションとして制作したものです。
リモートワーク中の朝、「心が壊れちゃったみたい」「だめだね、こんなに弱くちゃ」と涙ぐむ妻。パソコンに貼られた付箋から仕事に追われていることがうかがえます。そんな彼女を夫は黙って抱きしめます。「仕事も悩みもない所に行きたい」という願いをかなえようと、旅支度をした二人はベッドに横たわって空想旅行に旅立ちます。行き先は、奇岩が広がるトルコ・カッパドキアや海に浮かぶ修道院として知られるフランスのモン・サン・ミッシェル。そこには笑顔を取り戻した妻も。
漫画の後半、再び現実に戻った2人。仕事と家事という日常が続きます。自身の中にも似たような弱さがあることを自覚した夫のせりふが記されます。「弱いものと弱いものが身を寄せ合う口実が夫婦なのかもしれない」と。
漫画は公開後、「いいな、こういう夫婦」「ちょっと前のうちを見てるみたいでびっくりした」「夫婦って、こういうもんだよね」と共感を得て2万6千超のいいねが付きました。うえはらさんに聞きました。
―漫画の夫妻は、うえはらさんとパートナーの方がモデルですか
「半分くらい、僕と妻との間に実際に起きた出来事です。昨年の冬ごろに、妻が過労から少し調子を崩してしまい、その際に僕がしっかり励ますような言葉をかけられなかったことがずっとしこりとして残っており、その思いを漫画にしました」
―空想旅行も
「あそこまでばっちり着込んでやった、ということはありませんが、空想旅行をしたこともあります。漫画の中の2人の出会いや日常のエピソードも、僕の実体験をモデルにしているところがあります」
―旅を終え、2人は現実に戻っていきます
「空想旅行の結果、妻も元気を取り戻しましたというエンディングにすることも一瞬考えたのですが、それではあまりにも都合が良すぎるし、リアリティもわかないな、と思ったので、より現実的な展開にしました。「妻を支えられなかった自分の後悔」があるので、そういった意味でも都合よく妻が救われてしまってはテーマと向き合うことにならない、という思いもありました」
―パートナーの方は漫画について何と?
「「これ私の話?ありがとう!」と言っていました。日頃からあまりお互いの仕事に干渉しない雰囲気があるので、妻も僕の漫画にあまり感想を言ったりしません。もらった感想はこの一言です」
―森山さんはどんな感想を
「漫画を作る前に一度zoomで直接やり取りさせていただきました。その際、「無理に曲に寄せようとしすぎなくていいから、うえはら君が一番作りたいものを作ってくれたら、それが一番良い物になると思うよ」と言ってくださり、その結果この漫画が生まれました。完成した漫画については「ありきたりな表現になってしまうけど逃れようのない悲しみが潜んでいて、あの曲からここまで普遍的なテーマを呼び寄せてもらえて、作品そのものの可能性とこの企画の面白みを改めて感じられました。」という感想を送ってくださいました」
今回の漫画へのユーザーの反応は、共感の声もあれば、「相互依存っぽい」といった否定的な意見もあります。うえはらさんは「「弱いものと弱いものが身を寄せ合う口実が夫婦」という言葉も、この物語の夫婦の見解に過ぎませんので、皆さんがそれぞれの夫婦のあり方について思いをはせてもらえたなら、この漫画は役目を果たせたように思います。発信してから気づいたのですが、この作品が伝えたいのは「夫婦には夫婦の数だけ形がある」、ということかもしれませんね」と話しています。
うえはらけいたさんのtwitterはこちら→https://twitter.com/ueharakeita
森山直太朗さんの楽曲はこちら→https://www.universal-music.co.jp/moriyama-naotaro/products/um1as-01185/