なでちゃん(メス・3歳)は、埼玉県に住むSさんのマンションの勝手口にいたところをSさんの奥さんが見つけた。2018年8月8日、世界猫の日の出来事だった。
そのマンションの周辺にはたくさん野良猫がいたので、侵入による被害や苦情が絶えず、猫が入れないよう対策を施していた。大人の猫なら入れたかもしれないが、子猫が勝手口まで来るとは思えなかった。また、奥さんは普段は勝手口をのぞくことはないが、なぜかその日は、何かに惹かれるように勝手口をのぞいたという。
猫が入れるはずがない場所に
なでちゃんを見つけた奥さんは、「勝手口のところに子猫がおる」と、SさんにLINEを送ってきた。Sさんは関東地方に台風が接近していたので、その日は早めに仕事を切り上げて家に向かっていた。「猫が入れるはずがない」と思っていたので、すぐには状況が理解できなかったという。
Sさん夫妻は2匹の保護猫を飼っていたが、自分たちで保護したことはない。どうしたらいいのか分からず、しばらく二人はLINEでやり取りした。
そうこうするうちに奥さんから「捕まえた!」と連絡が来た。壁伝いに逃げようとするなでちゃんにキャリーバッグを被せて捕まえたそうだ。なでちゃんはガリガリにやせ細り、ノミのフンがたくさんついていた。Sさんは猫用ケージを組み立ててなでちゃんを入れ、ご飯と水を与えたが、なでちゃんは何も口にしようとしなかった。
「体長は先住猫と変わらないのに、抱っこしてみると驚くほど軽く、やせていました。お腹が空いているはずなのに何も食べない。これは何かおかしいと思い、翌日動物病院に連れて行きました」
3匹目の猫
なでちゃんは、外傷性の口蓋裂になっていて何も食べられなかったことがわかり、すぐに緊急手術をしてもらった。しばらく自分で食事を取ることはなく強制給餌をした。
「術後5日経った時に、我々夫婦と先生の目の前で突然ガツガツ食べ始めた時には本当に感動しました。そしてその頃にカミさんが脚を引きずっていることに気づいたのです」
レントゲンを撮ると骨盤骨折していると分かった。保護する前に顔面と腰部に強い衝撃を受けたようだった。骨盤骨折については特に処置をすることなく、今は完治していて、後遺症もない。右目に傷があり、それは今も消えていないという。
Sさんは、先住猫が2匹いたため、なでちゃんは里子に出そうと考えることもあった。しかし、口蓋裂に骨盤骨折、目に傷があり、野良気質と、なでちゃんはなかなか難しい子だった。
「何しろ初めて自分たちが直接保護した子でしたので、退院前には我が家の3匹目の猫として迎え入れることを決めていました」
ずっと幼い性格のまま
なでちゃんは、8月16日に退院した。最初は先住猫達にシャーシャー言われた。それでも大きな問題は起こらず、すぐに子猫らしくじゃれあうようになったという。成猫になってからはじゃれあうことはなく、付かず離れず絶妙な距離感を保っているという。
なでちゃんは野良猫だったはずだが、なぜかよく人馴れしていて、退院後はいつも誰かにひっついて寝ていた。
「3歳になりますが、ずっと幼い性格のままで、私は永遠の小学2年生と呼んでいます。起きている時はいつもオモチャで遊んで欲しいので私やカミさんの足元に猫じゃらしを次々と持ってきて、遊んでくれと要求します。その要求が控えめでめちゃめちゃ可愛いんです」
3猫のうちで一番ケンカが強い。強いというか、絶対に負けを認めない。ひと回り身体が小さいのに、2匹の先住猫を蹴散らす姿はある意味爽快なんだという。
夜寝る時は必ず奥さんのベッドで一緒に寝る。3年前に保護してもらったからなのか、奥さんに一番懐いている。
Sさんは筋金入りの犬好きだが、同じくらい猫が好きで可愛いと思うようになったという。家族の会話は猫中心になり、何度も同じ話を繰り返す。旅行が好きであちこち出掛けていたが、宿泊を伴う旅行はほとんど行かなくなった。
「日帰りで出かけても『猫たちが待ってるから』と、早く帰宅するようになりました」