10月31日に投開票された衆院選では、「れいわ新選組」が比例代表で3議席を獲得したことが話題になりました。比例近畿ブロックでも1議席を獲得し、大阪5区の候補者が復活当選しました。票の掘り起こしに尽力したといわれているのが、同ブロックに比例単独候補として立候補した八幡愛さん。タレントからの転身で注目を集めました。今回当選には至りませんでしたが、選挙活動を通して感じたことを特別寄稿してもらいました。
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私は第49回衆議院議員総選挙に、「れいわ新選組」から近畿比例単独で立候補しました。当初は小選挙区・大阪1区での出馬表明をしていたのですが、野党共闘をしなければ勝てないという思いから今回は一歩下がって、政党名を書いてもらう比例票の底上げを目的に選挙戦では近畿中を演説してまわりました。
れいわ新選組は比例近畿ブロックで1議席を獲得することができ、大阪5区の立候補者が比例復活しました。比例最後の1議席だったので、結果を知ったのは翌日の午前5時。戻っていた自宅で1人涙しました。わずかな差での滑り込みだったので、自分の選挙活動は決して無駄ではなかったんだと思えて、今まで我慢していた思いが溢れました。
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私は2011年に東日本大震災と、それによる原発事故が起きるまで、政治には一切関心がなく、自分とは無関係のものだと思っていました。でも違ったんです。守られない人たちが生まれ、安全ではないものが続けられようとする様子を見て、政治は自分たちの命に関わることなんだと初めて気付きました。そして、今まで見ようとしてこなかったことを、自分の目で見て取材をしたいと思い、市民メディアのリポーターを始めたことが、政治に携わるようになったきっかけです。
山本太郎代表とは脱原発デモの取材で出会いました。活動を本格的に手伝うことになったのは、れいわ新選組が立ち上がり、2019年の参議院選挙に挑戦する時です。リポーターとして政治を知れば知るほど心が折れ、あきらめかけていた時に、政治家としての安定を捨てて新党を1人で立ち上げた山本代表の姿を見て、地元でボランティア活動を始めました。そんな中、今回の衆議院選挙に挑戦してみないかとお声がけをいただき、私はともに戦いたいと即答しました。
新人で経験もなにもない素人だったので、とにかく最初はがむしゃらでした。公認発表の後は、いろいろ人から誹謗中傷も受けましたし、政党支持者からも「グラドル崩れに何ができるんだ」と厳しい目で見られることもありました。駅でご挨拶をしていても「女の政治家は笑ってればいいんだ」と、街の人から言われることも。悔しい思いをいっぱいしました。
負けず嫌いな性格なので絶対に見返してやると、朝5時に起きて毎日駅に立ったり、1日2万歩を目標で歩き、最終的には1200枚のポスターを街中に貼らせていただいたり…。とにかく活動量でみんなに認めてもらおうとしました。
しかし、応援してくださる方々と出会い、お話をしていくうち、どこか空回りしていたことに気付いたんです。
みなさんが口々にこうおっしゃるんです。「私の代わりに手を挙げてくれてありがとう」って。その言葉を聞いて、ハッとしました。政治家はみんなの声を聞いて、その思いを背負う、「みんなの代表」なのだとあらためて気付きました。
街頭演説会ではモニターを導入して政策を解説したり、質問に答えたり…。多くの人たちにどうにか足を止めてもらえないかと、路上ライブのような雰囲気で街頭演説会を開催したりと工夫を重ねました。政策について知ってもらうことが、思いを託してもらえるきっかけになるからです。
れいわ新選組が目指している社会は、「誰もが生きててよかったと思える社会」です。そのためには政府による大胆な財政出動で、25年続いたデフレから脱却して、1人1人の生活を底上げする必要があります。数々ある政策の中で、私の一推しは「小学校から大学院まで教育費はタダ、奨学金はチャラ」です。
私自身、クレジットカードで借り入れをしながら学んでいる現役の大学3年生です。当事者としての訴えということもあり、同じ大学生や、奨学金を返済しながら働く若い世代には、関心を持ってもらえることが多かったです。
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この国は、選挙があっても半分ほどの人が投票に行かず、どの選挙でも投票率の低さが問題視されます。政治に関心がない人や選挙に行ったことがない人を責める方がおられますが、それは間違っているのではないかと私は選挙活動を通して思うようになりました。
いろんな場所で街頭演説をしていると、よく同じ質問を受けました。「選挙に行ったことがないので行き方を教えてほしい」「投票の仕方を教えてほしい」…。投票に行こう!と選挙の度に呼び掛けられても、行ったことがない人にとってはハードルが高く、今さら細かいことも聞けません。それを受けて私は、政策などを伝える前に、まずは選挙の仕組みであったり、投票の仕方を説明することを心がけるようになりました。
「投票日には寝ていてほしい」と発言した元首相がいるように、できるだけ政治や選挙に関わらせないようなシステムが構築されてしまっているのではないかと考えます。選挙権が18歳に引き下げられましたが、学校教育の現場では政治の話は未だにタブー視されがちとも聞きます。政治や社会の問題について、みんなが自然と話ができるように、1人1人が日ごろから口に出して、話題にするハードルを低くすることも大切ではないかと考えます。
一方で、これまでよく言われていたような「若い世代は政治に関心がない」という概念は、もう古いと感じました。
若者が行き交う繁華街で演説をすると、こちらの予想以上に話を聞いてくれますし、自分たちの将来を案じていることがビシビシと伝わってきます。しかし、同時に“あきらめ”も感じます。それはとても冷静に「今の大人たち」を見ているからだと思います。どうせ何も変わらないとあきらめさせているのは、私たちなんだとあらためて気付かされました。
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開票日の翌日からは、会計責任の弟と領収書の整理や経費をまとめたりといった事務作業が始まりました。現在は会計監査も無事終了し、ひとまず落ち着きましたが、週末はモニターを使用した街頭演説会を行って、引き続きれいわ新選組の政策を伝える活動を続けています。今後、街頭演説会のほか、対話集会など要望があれば全国どこへでも足を運び、みなさんの声を聞かせていただく活動を続ける予定です。
今回の衆議院選挙では私は国会に行くことはできませんでしたが、今のこの国を絶対にあきらめてはいけないと実感ができた選挙でした。私たち1人1人には力があります。この国のオーナーは私たちだからです。政治に無関心であっても無関係ではないということを、今後も引き続き伝えていきたいです。
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なお、今回の衆議院選挙では、女性議員を増やそうという声が至るところで上がりましたが、小選挙区と比例代表に立候補した1051人のうち女性は186人で、当選した465人中、45人となり全体の9.7%でした。
私自身、もし自分の人生設計に出産や子育てを組み込むのであれば、立候補は到底できなかったです。そのほかにも女性候補者であるというだけで、まだまだ年齢や容姿のことを取り沙汰されるので、そこに耐える精神力も必要になってきます。男性中心の政界に女性が進出していくためのサポートについては、例えばクオータ制の導入を検討するなど、今後はますます議論をする必要があると思います。
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◆八幡 愛 1987年7月兵庫県生まれ。グラビアアイドルを経て、タレントとして活動。2011年の東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故を機に社会問題や政治に関心を持ち、市民メディアのリポーターとして取材を始める。2019年、早稲田大学人間科学部eスクールに入学。2021年の衆議院選挙で「れいわ新選組」から比例近畿ブロックに立候補。