【漫画】「やっと寝てくれたのに…」選挙カーの爆音に悔し涙するママに共感殺到「これで『子育て支援』と言われても」

竹内 章 竹内 章

やっと思いで寝かしつけたのに、選挙カーの大音量でぐずり始めたわが子はやがて大泣き。感情があふれそうになった母は窓を開け、選挙カーに向かってー。日曜日に衆院選の投開票が迫り、候補者の訴えも熱さを増す今、「まさに昨日それでした」「今日のお昼寝まさにこれだった。窓開けてうるさい!って叫びたくなる」とSNSで読まれている漫画があります。みんなの代表を選ぶ選挙、大事です。大事だとはわかっていますが、選挙カーの爆音、何とかなりませんか。

保育園に通うはるちゃん(2歳)とちーちゃん(4歳)姉妹のママとして、姉妹の発言や行動を優しいタッチで表現している、やまぎし みゆき(@yukiyama_27)さん。「選挙の時期に思い出すこと。」と題した漫画をSNSに公開すると、2万超のいいねが付きました。

 母の怒り、そして涙

漫画の冒頭は、カーテンを引いた薄暗い部屋でお母さんがゼロ歳児を抱っこする場面から。初めての子育てで不安な中、かれこれ1時間以上とんとんゆらゆら。寝息を立て始めた娘を慎重にお布団に。これ以上ないほどそーっと寝かせます。「やった!これでトイレに行ける!」とお母さん。 

それをぶち壊したのが表を走る選挙カーの大音量。ぐずり始めた赤ちゃんはやがて大泣きに。放心状態のお母さんが窓を開けると、聞こえてくるのは「子どもに優しい社会を実現します!」「ニッポンの未来を明るく照らします!」というセリフ。選挙カーをにらみつけるお母さんの目は潤み、手は置き時計をつかんでいました。車両が去り、カーテンを引いた部屋でお母さんはだっこしながら「大丈夫」「大丈夫」と繰り返すところで、漫画は終わります。

 乳幼児を抱える親のやりきれない思いが投影されたこの作品。「住宅街まわるんやめて、演説できる所定の【お願いエリア】作ってやってほしい」「私も何度も心を折られました」「当方現役保育士ですが、園のお昼寝中も同じです」などのコメントや引用ツイートからは多数のユーザーの共感がうかがえます。

 熱心それとも騒音

候補者などが選挙運動用自動車から拡声器を使い名前を連呼したり、停止した選挙カーの上で街頭演説したりするのは、公職選挙法140条の2に基づき、候補者ができる選挙運動の一つです。午前8時から午後8時まで行うことが認められており、「2年以下の禁固または50万円以下の罰金」の罰則があります。また、同法は、幼稚園や学校、病院や診療などの周辺については、「静穏を保持するように努めなければならない」などと規定していますが、あくまで努力義務でこちらは罰則はなし。「静穏」についての明確な基準はなく、音量については選挙運動をしている人の判断に委ねられます。 

選挙カーの騒音問題は選挙のたびに持ち上がる古くて新しいテーマですが、候補者にとっては有権者に自分の存在や意見を知ってもらう大切な方法です。神戸市公式サイトの「よくある質問と回答」には、選挙カーへの苦情という設問があり、選挙管理委員会事務局は「候補者にとっては法律で定められた範囲内で有権者に訴えようとしていることでもあり、有権者にとっても候補者やその政見を知る機会でもありますのでご理解をお願いします」と答えています。また、有権者の心理については、大阪大学大学院の三浦麻子教授(社会心理学)のグループが、2015年の赤穂市長選の調査を踏まえ「選挙カーで名前を連呼しても候補者の好感度は上がらないものの得票にはつながる」との論文を発表し話題になりました。

「機材を使った大音量は反対です」

やまぎしさんに聞きました。

―遠ざかる選挙カーをにらむシーンは怒りと悔しさが入り混じっていました。実際のやまぎしさんは?

「何もできませんでした。子どもが泣いていたのでまた寝かしつけに専念しました」

―気持ちはぎりぎりだったのですか

「夜間の授乳もあり、寝不足のまま立って抱っこして、やっとのことで寝てくれたタイミングだったので、やり場のない怒りと疲れでボロボロでした。『大丈夫』と自分に言い聞かせないとおかしくなりそうでした」

―選挙カーの連呼については

「子育て中のパパママはもちろん、夜勤明け、今なら在宅勤務とさまざまなライフスタイルがあると思います。私個人は機材を使った大音量の選挙カーは反対です。住宅地や保育園、学校、病院などはしっかり配慮すべきと思います。投票先はマニフェストを見て決めていますが、子育て支援を訴えているのに実際にやっていることは…となると、それも判断材料の一つにはなります」

―候補者の存在や意見を伝えているという面もあります

「選挙カーによる選挙活動は昔からの方法だと思いますが、ネットが普及している今、この方法が果たしてベストなのかな、という印象です。多くのコメントを拝見し、困っているという意見を読みました。一方、選挙カーが回ってこないと怒る人がいる、という声もありました。時代とともに手法はアップデートされるべきだと思いますし、多様な意見を踏まえた議論が住みやすい世の中につながると思います」

 制定から70年以上経つ公選法は抜本的な改正をしていないまま今日に至り、内容が現代にそぐわないという指摘があります。3密回避、在宅勤務、換気が求められるコロナ禍における初の総選挙では、SNSやネットに重きが置かれるなど選挙運動の形も変わりつつあります。

 やまぎしさんは「選挙カーについて議論が進んでくれたらいいなと思います。私たちの世代も、私たちの声を聞いてほしいと思うのならば、投票にいかなければなりません。より多くの方が投票に行って、未来がより良きものになることに期待しています」と話しています。

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