鳥栖の女性殺害 当初は「変死」扱いも容疑者の自首で事件と判明…小川泰平氏が初動捜査に疑問

小川 泰平 小川 泰平
佐賀県鳥栖市で女性が殺害された現場。規制線の右奥、被害者が倒れていた場所にブルーシートが掛けられていた(撮影・小川泰平)
佐賀県鳥栖市で女性が殺害された現場。規制線の右奥、被害者が倒れていた場所にブルーシートが掛けられていた(撮影・小川泰平)

 佐賀県鳥栖市内の住宅敷地内で高齢女性を鈍器で殴って殺害したとして、長崎市に住む長崎大4年山口鴻志容疑者(25)が14日、殺人の疑いで佐賀県警に逮捕された。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は15日に現場取材し、一夜明けた16日、当サイトに対し、目撃者がいない中で当初は「変死」として扱いながら、山口容疑者の自首によって殺人事件であることが判明したという経緯から、警察の初動捜査に対して問題提起した。

 逮捕容疑は10日午後1時すぎ、鳥栖市の住宅敷地内で無職大塚千種さん(79)の頭部を鈍器で複数回殴り、外傷性くも膜下出血による脳機能障害で殺害した疑い。山口容疑者は13日午後0時半ごろ、大分県の大分中央署に凶器とみられる金属製のハンマーを持って自首し、翌日逮捕された。佐賀県警によると、同容疑者は殴ったことを認め、「殺してしまうかもしれないと思ったが、確定的な殺意はなかった」と供述。また、捜査関係者によると容疑者は被害者と面識はなく、「殺せる人を探していた」という趣旨の供述をしているという。 

 現地を取材した小川氏によると、事件現場は周囲に田んぼや畑がある小さな集落。大塚さんは10日午前から昼過ぎにかけて自宅隣にある親族の家の敷地内で除草作業を1人でしていたというが、倒れている姿を近隣住民が見つけて119番通報。小川氏は「10日にご遺体が発見された時は『変死』として扱われ、殺人事件として扱われていなかった。容疑者が自首したことによって殺人事件であることが判明したという、捜査的にはいかがなものかというところが正直あります」と指摘した。

 佐賀県警は10日時点で「転倒した際にできた外傷」で「変死事案」として扱い、目撃情報もないことから「ただちに事件化できる状況ではない」として緊急配備の措置をとらず、公表もしていなかった。事件発生は金曜だったため、司法解剖を依頼した大学は土日を挟んだ13日の月曜に対応予定だったが、事件と判断される前に容疑者が自首した。

 小川氏は「転倒で付いた傷なのか、ハンマーで殴打された傷なのか、それが分からないわけがない。しかも、複数回も殴られている。転倒したのなら、毛髪が壁や地面などから発見されたり、石片が頭部に付着したりするはずで、そういったことを全く見ていないのではないか。鑑識活動の不備である。すぐに殺人事件とは分からないまでも、何らかのトラブルに巻き込まれたとは容易に分かるはず。それを『転倒した傷』と見間違えるのは考えられない」と苦言を呈した。

 さらに、同氏は「司法解剖を依頼したということは事件性もあるとみていたことになるが、記者クラブには殺人事件として発表もしておらず、捜査本部を設置しているわけでもないので、警察が事件として認知していない中で、本人が警察機関にて犯行事実を伝えれば『自首』になる。事件として捜査が始まっていれば『出頭』ですが、今回は自首が成立すると思います」と補足した。「出頭」ではなく、「自首」ということになると、減刑される可能性もあるという。

 一方、動機の面では不可解で謎も多い。事件前日の9日、山口容疑者が住む長崎市のアパートで部屋の一部を焼失する火災が発生し、長崎県警が同容疑者の所在確認を進めていたという。同容疑者は同日に福岡市で宿泊し、翌10日にタクシーで鳥栖市に移動して犯行に及んだ後、福岡経由で大分市に移動して自首した。

 小川氏は「九州各地を転々としている点も不可解。本人は動機として『誰かを殺したかった』という趣旨の供述をしているようだが、現場は鳥栖の駅から徒歩で30分以上の閑静な住宅地で、ほとんど人が出歩かない場所。供述が事実だとしたら、この場所を選んだ理由が理解できない。初めて来た土地で面識のない相手を何度も殴ったこと、『殺せる人を探していた』という供述も通常の感覚からすれば理解しがたい。ただ、事件前夜の火災については、放火か失火かまで詳しくは分からないが、そういう事実はあったわけであり、本人の中で何かの変化があったのではないかと想像は付く」と分析した。

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