米国民が「報復を」と叫ぶ姿に大きな危惧を覚えたあの日 テロとの戦いが招いた20年後の現実

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

20年前の2001年9月11日、私は米国ボストンの大学院の講堂のスクリーンで、飛行機に突っ込まれ、炎を上げ、そして煙を上げて崩れ落ちるワールドトレードセンターを、茫然と見上げていました。あまりのことに、同級生たちと一緒に、混乱し、驚き、涙を流していました。

この同時多発テロで、日本人24人を含む2977人の尊い命が奪われました。犠牲となられた方々のご無念、ご遺族のお悲しみや苦難は、察するに余りあります。

豊田真由子が国に提出した留学報告書(2002年)抜粋

少し長くなりますが、帰国後、国に提出した留学報告書(2002年)の同時多発テロに関する部分を記載させていただきます。

この世界で危うく保たれてきた均衡のひとつが、大きく崩れた瞬間であったろうと思う。犠牲となった方々のご冥福を心より祈る。(中略)
私は、米国の人々(ホワイトハウス、マスコミ、市井の人々、教授陣やアメリカ人の学生たちも含め。)が皆、星条旗を掲げ、「報復を」と叫ぶ姿に大きな危惧を覚えた。それは、本質的な問題の解決にはならないのではないか、と思ったのだ。(中略)
米国の『正義』が米国人にとって「絶対的」なものであるのと同様に、テロリストたちとその背後にある一部のイスラムの人々にとっての『正義』は、彼らにとって「絶対的」なのだということ、そして、米国の単独行動主義や覇権主義がもたらした現実を、米国の人々はどう考えているのであろうか。
むろん、テロという行為は、絶対に許されるものではない。犠牲となった方々の無念とご家族の悲しみを思えば、怒り狂う米国民の気持ちは、痛いほど分かる。されど、さればこそ、真に問題を解決しようとするのであれば、ああいった行動に出た人間たちの、その背後にある世界の大きな苦悩と矛盾に、我々は思いを馳せ、その上で、あるべき道を模索して行かねばなるまいと思う。(中略)
この不条理な世界に解決を、と考えるとき、その溝は、あまりに深い。

豊田真由子が米国から帰国後、国に提出した留学報告書より

その後の米国の“テロとの戦い”、アフガニスタン撤退に至る道のり、国際情勢は、皆様ご存じのとおりですが、20年前の危惧が現実のものとなり、改めて非常に残念に思います。

米国によって樹立された政権はあまりに脆弱だった

2021年8月、アフガニスタンがタリバンに制圧されました。米軍の撤退は、引き金ではあったとしても、根本的な原因ではなかったと、私は思います。米国によって樹立されたガニ政権やアフガン国軍は、国を造る・守るには、その意欲も実態も、あまりに脆弱でしたし、多民族・他部族国家で対立が多く、それぞれ独自の意思決定のための社会構造を持ち、巨額の支援も国内のインフラ整備にはつながっておらず、大半を占める農村部で苛酷な生活を送る多くのアフガニスタンの人々に、安心を与えるものではありませんでした。

そして、アフガニスタン社会には、「民主主義的な」先進国の価値観が根付く素地が、残念ながら、あまりなかったのではないでしょうか。

「たとえ」が適切か分かりませんが、もし戦国時代の日本に、他国がドドンとやってきて、上から、「争いはやめて平和を」「民主主義を取り入れましょう」「男女は平等」と言っても、その実現は全く容易ではなかったことでしょう。

同じように、アフガニスタンのような状況にある国に、先進国の民主主義や価値観を持ち込んで実現させようとしても、うまくいかないのだと思います。それぞれの国や地域の歴史、伝統、価値観、宗教、風土、社会実態などを、よくよく考慮して、それらに適合する形で、徐々に発展させることを目指していかねばならないでしょう。

先週、テレビ番組で、中東のご専門家の方に、この点についてうかがったところ、「その通り。現地の制度や価値観を脅かさない形での支援が必要。人の育成支援という観点も大切。例えば、特に産婦人科では、男性医師は女性患者に触れられないので、必ず女性の医師が必要になる。したがって、アフガニスタンの女性を日本の医学部に留学させ、教育をするというように、誰が見ても必要で手助けになる、ということはある。みんなで知恵を絞って考えましょう。」とのことでした。

   ◇   ◇

この世界は、本当に多くの悲しみや苦しみ、不条理に溢れています。地球上には、相互理解が極めて困難な人同士が多く暮らしていて、紛争やテロなどの命を脅かすほどの争いが、絶えることがありません。

個人としても、社会としても、絶望に陥りがちな中で、それでも、目を背けず、諦めず、希望を持ち続けていけるか、そして、自分や自国にはなにができるかを、考え続けていくことが大切なのではないかと思います。

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