徹底的に簡素でシンプル…とてもお洒落な「フランスの国民車」シトロエン2CVに乗ってみた

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 シトロエン2CVというと、ルパン三世「カリオストロの城」でクラリスが乗っていた、あのかわいらしいクルマですね。先日、試乗する機会がありました。

 2CVは1948年にデビューしたフランスの国民的大衆車です。その設計思想はとにかくシンプルでベーシック、徹底したコストダウンが図られています。「2CV」というのは「2フランス馬力」という意味ですが、これは当時のフランスでの税制上のカテゴリー名で、本当に2馬力しかないわけではありません。デビュー当時は375ccで9馬力、その後どんどん改良されて、モデル後期には602ccで29馬力ありました。水平対向二気筒、フロントエンジンフロントドライブ。簡素な構造のために車重も軽く、最終モデルでも590kgほどです。

 馬力は小さいもののとにかく軽い車重、そして細いタイヤの組み合わせで意外と悪路にも強く、フランスの農村地帯では日本の軽トラのような働き者だったと言われています。また、クラシカルなスタイルですが、かなり長い間製作されていたクルマで、最終は1990年です。日本では新車のATの割合がMTを逆転した頃なので、わりと最近という感じがします。

クルマというものの楽しさをあらためて感じる

 今回試乗させていただいたのは、筆者の知人が個人輸入したあと、ショップで整備を受けて新規登録されたものです。後期の2CV-6スペシャルと呼ばれるモデルで、オレンジ色のボディは適度にやれていて、彼の地でもきっと実用にされていたのだろうなあという年季を感じさせるものです。

 これぞ鉄板、という感じのドアを開けて乗り込みます。ドアは内側も一部を除いてほぼ鉄板です。窓は上がったり下がったりするタイプではなく、下半分が折り返して上に開きます。ビニール製のルーフトップを開くと、ほぼオープンカーのような開放感。いやもうこれは露出感といった方がいいかもしれません。必要最小限度のエンジン出力なので、エアコンなんていうものは当然ありません。しかしこのオープンエアなキャビンのおかげで、走っている間はそれなりに涼しい感じはします。雨の場合は、うん、いまは降ってないので考えないことにしましょう。

 ベンチシートの運転席はこれまたシンプルなものですが、これが意外と快適な座り心地で、まさにシトロエンマジックとでもいいますか、さすがフランス人の仕事といいますか、全く不満がありません。

 シフトは当然マニュアルです。そしてこのシフトノブがまた独特なんですね。ハンドルの右側、ダッシュボードから棒が突き出していて、その棒の先が90度曲がっていて、先端にボールがついている、これがシフトノブなんです。このボールを掴んで左側にくるっと捻って引っ張れば一速、真ん中に立てて押し込めば二速、そのまま引っ張って三速、右に倒して押し込めば四速という面白い動きです。

 繋がりがごくごく自然で扱いやすいクラッチを繋ぐと、軽自動車よりも小さいエンジンなのに意外な力強さで発進します。さすがに一速はかなりローギアードなので、すぐに二速、三速とテンポよくシフトアップしていくと、ぷるんぷるんと二気筒のパルスを刻みながら軽快に加速します。動力性能としては現代の交通の流れに乗るのに十分です。

 ただしパワーステアリングがないのでハンドルはちょっと重いです。車重は軽いものの、エンジンやミッションなどの重いものが全てフロントにあって、さらにフロント駆動なのでその辺りも影響しているのでしょう。またブレーキも当たり前に効くのですが、倍力装置がないのでしっかりと力を入れて踏まないと止まりません。

 メーターも操作系も全て必要最小限度で、電子制御でいろいろ自動化されて人に優しい今の車と比べると、実に素っ気ないです。しかししばらく乗っていると、この素朴さが本来のクルマなのではないか、という気持ちになってきました。クルマって元々こういうもの、これでいいのではないか、と。そう感じ始めると、何か物凄く気分が良くなってきて、ちょっと遠出がしたくなってくるような、そんなクルマならではの楽しみみたいなものを感じました。

 それから2CVのリアシートは、簡単に取り外すことができて、外に置くとそのまま簡易ソファになります。アウトドアのレジャーが人気になっているこの頃、見晴らしのいい芝生の上にリアシートを置いて、なんていう楽しみもまたいいのではないでしょうか。

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