「パンダさ~ん!」「寝てはるわぁ」「…足、動いた?」。訪れる人たちの記念撮影に爆睡ポーズでおさまり、起きると「タイヤイン」して竹を食べ、ニンジンを咥えれば背を向けて「おにぎりポーズ」。さすが自分の魅せ方を分かってらっしゃる感たっぷりの神戸市立王子動物園のアイドル、ジャイアントパンダのタンタン(25歳メス)。
ですが、今年春には心臓疾患が明らかにされ、検査などのため観覧時間は短縮。治療開始当初は食欲や運動量が増え順調に見えたものの、8月には食欲減や寝る時間が増加、体液が体内に溜まるなど心配な病状報告がされ、9月2日からは体調を考慮して観覧時間がさらに短縮されることに。そんな中、公式ツイッターでは飼育員が日々の様子を優しい目線でつづっています。最近の話題は、というと…そう、“お薬戦争”。飼育員とタンタンと、化かすか化かされるか、仁義なき戦いが繰り広げられているのです。
「おっ、少しなめた」と思った瞬間…
「リンゴ、ブドウ、そしてお薬入りの氷と次々とタンタンさんに気づかれてしまい(中略)そこで獣医師の一人が考えてくれたのが、サトウキビを二つ使い、挟み込み、薬を落ちにくく、しかも隠してしまうという方法。最後に冷凍し、固めてやっと完成です!」(8月15日スタッフブログ)
「やはりと言うか少し警戒する様子も見られはじめ、場合によっては食べてくれない時もありました。(中略)まずは薬の入っていないそのままのジュースで慣れさせていき、慣れてきたところで、薬を粉状にし、それをジュースに混ぜて与えてみました」「『飲んでくれるのか?』と固唾を飲み、見守っていると、『おっ、すこし舐めた』と思った瞬間、舐めるのをやめてしまいました」(8月22日スタッフブログ)
うーん、こんなに愛らしくても、さすがは野生動物。でも文面からもその可愛すぎる攻防と、タンタンへのあふれる愛が伝わってくるようです。担当の梅元さんに今の思いを聞きました。
-“お薬戦争”大変ですね(笑)今はどんな方法を?
「とりあえず今は、サトウキビジュースに薬を潰して混ぜ、飲ませる方法が安定しています。イヤがる時もありますがジュースを足せば最後まで飲んでくれます。飲むのが良いと分かったので、『味変』できるほかの果汁を考え中です。ふだん食べるもので何が使えるか、秋になったら柿が好きやから使えるかな、とも」
-1度見破られるともうダメ?
「間隔を開ければ大丈夫。2週間から1カ月くらい薬なしの期間を入れて、だましだましです。ブドウやリンゴに入れたり、混ぜて氷らせたり、サトウキビに挟んだり。手渡しだと『何か入ってるでしょ』って顔で警戒するのに、置くと食べるし。ほんま、めんどくさくて賢いなあと思います」
「ただ、これまでの短いスパンの投薬ならリンゴも使っていましたが、現在使っている薬は一生付き合っていくものなので、リンゴ=薬と学んでしまうとトレーニングのご褒美に使えなくなるので、リンゴは使えなくなりました」
病の影、それでも「少しでも健やかに楽にいられるよう」
-食欲が落ちる中、竹の葉を食べてくれたと喜ぶツイートも
「食べてくれた、うれしい、というのは確かに増えました。前は、好きなもの食べとってくれたらいいわ、でしたけど、今は食べてもらわないと始まらないので、そこで一喜一憂はあります。季節的に竹があまり良くないので、今食べないことは心配していません。秋以降は食べる量が増えるはずですが、期待と不安、両方です。これまでとは状態が違うので、同じようには食べないでしょうね」
-寝ている時間が増えているようです。
「病気の影響でしょうね。しんどいのか、めんどくさいのか、どっちもなのか。もともとパンダはそんなに動き回る動物じゃないし、食への『欲』もほかの動物に比べたら少ないです。気に入らなかったら食べないですから。こういう状況ですが、見る人に、あまりネガティブになってほしくないなと思いながら言葉を選んでいます」
「タンタンだけじゃなくて、どんな生き物もみんないつか終わりが来る。ぼくらは彼女が少しでも健やかに、楽にいられるようにがんばっています。不安とか心配はぼくらが引き受けますので、皆さんには、ストレートに『タンタンかわいいな』って思ってもらえたら、と願っています」
-病状が好転しない中、気持ちを保つのは大変では
「正直、あまり実感がないんです。心臓疾患があるのは事実で、8月の公式発表の通り以前の状態とは確かに違いますが、これまでも日々良くなったり悪くなったりするのを見ているので、僕らも何も変わりませんし、(悪化しているという)実感もないんですよね…。ただ、タンタンと向き合い続けるだけです」
県外からの“お見舞い”に懸念?ファンもスタッフも複雑
緊急事態宣言下で臨時休園する動物園や水族館も多い中、同園は、兵庫県・神戸市の方針により、感染対策を徹底した上で開園。「居住の都道府県の外出自粛要請などを踏まえ、来園を判断して」と呼びかけており、タンタンのもとへは県外からの「お見舞い客」も。こんな時にと不安視する言葉がSNS上で投げかけられる一方、こんな時だからこそ、今だからこそ、会いたい、近くで見守りたいとの思いに、共感する声もあります。
「タンタンに会いたくても来られなくて複雑な思いの方も多いと思います」と梅元さん。だからこそ、一瞬の表情や動きを捉えては、丁寧に言葉を探し「ちょっとでもクスッとなってもらいたい」とツイートを重ねます。実は、小学生のころから作文や標語は得意でよく表彰されていたそうなので、これからさらに、その才能が発揮されるはず。
もうすぐ26歳の誕生日を迎えるタンタン。コロナ禍や体調を考慮し、「お誕生日会はしない、と決まっています。でも、もちろん何かお祝いはしてあげたい」と梅元さん。もうひとりの飼育担当で「パティシエ」の吉田さんがアイデアを練っている段階で、形にしていくのはこれから。投薬並みに、いえそれ以上に頭を悩ませ、試作を重ねる日々が続きそうですが、せめて、せめて、タンタンに「チラ見スルー」されないように…祈ります!