「時代に合った民族服を」自社ブランド古着買取→修繕、再販売へ 京都・西陣のアパレル会社の取り組み

山本 智行 山本 智行

 1日でも長く服を着てもらいたい。京都・西陣で流行にとらわれないアパレルブランド「MITTAN」を主宰、運営する「合同会社スレッドルーツ」が10月からユニークな試みにチャレンジする。自社ブランドの製品を古着として買い取り、修繕し、その後に新たな価値を付けて再販するというもの。代表でデザイナーの三谷武さん(40)に、その背景を聞いた。

 三谷さんは2013年、32歳で独立し、翌年にアパレルブランド「MITTAN」を立ち上げた。その姿勢はちょっと変わっていて、一番の特徴はファストファッションにありがちな効率性や利潤を重視した大量生産、大量消費にあらがっているところ。作り手の顔が見えることも重視し、できるだけ現地まで行って生地を選び、染め、国内縫製にこだわっている。

 「使い捨てではなく、できるだけ長く、愛着を持って着てもらえるような服、時代や流行にとらわれない服づくりを目指しています」

 コンセプトは、いまの時代に合った民族服。そのため、基本的にデザインの変わらない定番商品をつくり続け、そのほとんどがジェンダーレスでエイジレスな日常着だ。

 アパレル業界と言えば華やかなイメージで流行を追うのが当たり前と思われる中、なぜ、こう考えるようになったのか。三谷さんは言う。

 「効率よく、たくさんつくるのもひとつの考えでしょうが、そうなることで物が大事にされなくなっている。いまは作り手の顔が見えなくなっているが、そうじゃないものづくりがしたい。本来服とはどういうものか。だれが縫ったか、分かっていると簡単には捨てられません。わたしたちが背景を伝えようとしてるのは、それを知ったほうが、物を大事にするんじゃないかなって思っているからです」

 岡山県出身。高校時代から謎の天才デザイナー、マルタン・マルジェラの影響を受けるなどファッション業界に強い関心を持っていた。その後は東京の「文化服飾学院」のアパレルデザイン科へ。卒業後は京都、大阪のアパレルメーカーに勤務した。デザイナーとしての腕を磨きつつ、営業、企画なども担当。将来の独立に備えた。

 その間に、三谷さんはアパレル業界について常に違和感を覚え続けていたという。そのひとつが、いまだに世界にはびこる児童労働の問題。当該のアパレル大手に対する不買運動は起こっても一過性で終わり、自浄作用がなかなか働かない。さらに劣悪な環境での低賃金労働といった搾取の問題も気になっていた。

 決定的だったのが2013年、バングラデシュで起こった縫製工場のビル倒壊事故だ。低コストとスピードを追い求めた末に若い女性を中心とした従業員1000人以上がなくなるという大惨事。これを受け、このままではいけないと行動を起こした。地球規模で考えるとささやかなことかもしれないが、じっとしていられなかった。以来、ぶれることなく独自路線を貫いている。

 「ファストファッションの構造には問題があると思います。わたしたちも量産品をつくっているわけですが、自分が環境や人に負荷をかけて何かものをつくるのであれば、そこに責任を持たなければならない。そう思っています」

 そのため「MITTAN」では服の寿命を延ばそうと、立ち上げたときからほつれや破れなどの修繕にも力を入れてきた。そして今回はさらに踏み込み、画期的な試みに挑む。何と、自社ブランドの古着を買い取り、修繕、染め直すなどして新たな価値を付け、販売するというのだ。つまり、二次流通にも乗り出すというわけでスタートは10月を予定。いまは、その準備を進めている。

 「ムダをなくすというのが一番なんです。1着の服には、関わった人のいろんな思いやエネルギーが使われている。なので、着用後の服が戻ってくるとうれしいです。穴があいてたりとか裂けちゃってたり、なかには7年ぐらい経ったものもある。ここまで着てくれたんだ。がんばったね、みたいなものもある」

 14年から始めた展示会は年2回続けて来た。うれしいことに三谷さんの服づくりに対する一途な思いは少しずつ浸透し、いまでは年間の生産数1万5000着にのぼる。コロナ禍で始めたネット通販もタグにQRコードをつけ、それをかざすと製造に携わった工場、生地の産地など背景やストーリーが分かるようになっている。

 工場との絆の強さも特徴的だ。人とのつながりを大切にして来た三谷さんらしく「縫製工場との取り引きは一度始まると基本的に終わらない。支え合っていることを実感できるときが幸せです」と笑顔を浮かべた。

 つくる側にも着る側にも優しい服づくりは当然、環境にも優しい。服のお医者さんでもあり、服のおくりびとのようでもある三谷さん。ぽっと出のSDGs提唱者とは信念が違うと感じた。服の寿命を延ばす取り組みがうまく循環してほしいと思う。

合同会社スレッドルーツ
〒602-8202 京都市上京区栄町660
tel./fax. 075-203-9014
ホームページ:http://mittan.asia
インスタ:https://www.instagram.com/mittan.asia.repair/

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