大阪湾から北東に進み、京都府京田辺市付近で発達して豪雨をもたらす積乱雲の研究に、科学研究で数々の受賞歴を持つ京都府立桃山高(京都市伏見区)のグローバルサイエンス部・気象班の生徒たちが挑んでいる。たびたび京都府南部に大水害を起こしたとみられる積乱雲を「田辺五郎」と名付け、気象予報士の顧問とともに発生条件やメカニズムを探っている。
■淀川沿いに大阪からやってくる、田辺五郎とは
気象予報士の資格を持つ同部顧問の阪本和則教諭(41)によると、大阪湾では瀬戸内海と紀伊水道からの気流が収束し、積乱雲が発生しやすい。この積乱雲は、高層ビルなどの空気抵抗を受けにくい淀川沿いを北東に進む。そして、京都・大阪府境の丘陵地帯を越えた後、京田辺市付近で急発達するため「田辺五郎」と名付けた。
田辺五郎は、次々と発生して記録的な豪雨をもたらす場合もあり、過去に起きた南山城水害(1953年8月14~16日)や京都府南部豪雨(2012年8月13~14日)の原因とも推測されるが、詳しい発生条件などは未解明という。
■田辺五郎に挑むグローバルサイエンス部、どんな高校生たち
桃山高のグローバルサイエンス部は、物理、化学、生物など自然科学に関する複数の班があり、約100人もの部員がいる。研究成果が科学雑誌「Newton」に掲載されたこともある、ハイレベルな高校生たちだ。
今回の研究を担っているのは、1~2年の4人でつくる気象班。「地元に災害をもたらす雲なのに、分かっていないことがある。それを解き明かしたい」という理由で、今年5月に研究をスタートさせた。
■高度な分析、気流の収束や内陸の地形など影響か
気象班は、専門的な気象予報サイト「GPV気象予報」を元に、田辺五郎の発生を予測し、天気図やレーダー、風向風速、目視による観測などで、実際に発生した時の条件を調査する。また、京都盆地の大型立体地形図を製作し、ドライアイスを使って気流の動向を再現する実験も進行中だ。
観測を開始して以降、田辺五郎は7月までに複数回出現した。結果、大阪から積乱雲を運ぶ南西風と、奈良方面からの南風などが京田辺市付近で収束した際、渦巻くような上昇気流が起こり、田辺五郎が発達することなどが分かってきた。
気象予報士を目指す班長の2年楠本壮一朗さん(17)は「田辺五郎は京田辺市付近で発達することが最も多いが、南の京都府木津川市付近でも似た現象が起こるなど、複数のパターンが分かってきた。内陸の地形や風向の影響が考えられる」と分析する。
■「田辺五郎」の名前の由来とは
ところで、なぜ「五郎」なのか。
実は、京都では古くから夏の積乱雲を発生地域にちなんで「丹波太郎」「山城次郎」「比叡三郎」と呼んできた。
グローバルサイエンス部は2005年、京都市伏見区付近で発達する新しい積乱雲を確認し、「桃山四郎」と命名。自らの生み出す気流で増殖する「バックビルディング現象」で次々に発生することなどを解き明かし、論文にして注目を集めた。今回も、それに続く形で田辺五郎と名付けたという。
■田辺五郎だけじゃない、気象班の活躍
気象班は、田辺五郎の研究だけでなく、校内で天気予報を毎日発表している。毎朝8時に集合し、地上、高層天気図などを確認して予報を作成し、お昼の校内放送で流している。雨の降り出す時刻なども予測し、全校の注目を集める。もちろん、全員が気象予報士の資格取得を目指している。
1年齊藤大翔さん(16)は「小さい頃、雨の降り出すときに独特のにおいがしたことから、ずっと天気に興味を持っていた」といい、「部活で研究すればするほど疑問が深まる。一生の居場所を見つけた気分です」と活動にのめりこむ。
阪本教諭は「田辺五郎をはじめ、局地的に発生するローカルな気象は、分かっていないことも多い。過去、地域に大きな水害をもたらしたと思われる現象を、高校生の力で検証してほしい」と期待する。気象班は今秋、「田辺五郎」について論文を