YouTube全盛の時代になぜラジオで発信? 新庄剛志氏も出演、地域密着ミニFM局に注目集まる

杉田 康人 杉田 康人

大阪市淀川区にある地域密着型のミニFMラジオ局、ここからコミュニティー・エフエムひめ(愛称、淀川防災ラジオ=77・2MHZ)が、地元の注目を集めながら聴取者を増やしている。

ミニFMとは、NHK・民放のFM局や市町村単位のコミュニティーFM局とは違い、放送免許不要の微弱電波を使ったFMラジオ局。80年代に当時の若者の間でブームになり、91年には中山美穂主演の映画「波の数だけ抱きしめて」の題材にもなった。放送免許がいらず、聴取エリアが限られることから、現在でも野球場やイベント会場などでの臨時放送局としても使われる。

大阪メトロ御堂筋線・東三国駅近くの古民家にあるエフエムひめから半径約100メートル四方にしかFMの電波は届かないが、インターネットラジオやアプリを通じて全国にも生配信している。

小さなラジオ局ながら、元プロ野球選手の新庄剛志さんやタレントの円広志さんも番組に出演。淀川区域の情報発信番組「マンスリーよどがわ」の放送や、区役所・地元警察と連携しての防災、防犯情報を流している。

エフエムひめは、2019年5月に西淀川区姫島で本庄強さんが開局。吉本興業の元芸人で、漫才コンビ・中川家やケンドーコバヤシさん、陣内智則さんらと同期のNSC(吉本総合芸能学院)11期生だという。

本庄さんは移り住んだ姫島で、イベント用に所有していたミニFM用の機材を使って放送を開始。2021年4月、まちづくりや空き家の活性化などを手がけるNPO法人・ここから100などの協力を得て、東三国に移転した。

愛称に「淀川防災ラジオ」を採用するエフエムひめ。本庄さんは局の近くに住み、台風接近時などには雨量や淀川や神崎川の水位など、即時に地域の防災情報をきめ細かく伝えている。

本庄さんは阪神・淡路大震災で友人を亡くし、ボランティアで家屋などの解体を手伝っていた経験もあるだけに「防災は外せない。淀川区は川に挟まれているので、水位などを測って決壊する可能性がある時は待機している」と使命感に燃える。

プロデューサーや、芸能プロダクション運営でも腕をふるう本庄さん。「エフエムひめは、頑張っている人の応援ラジオ。精力的に動いている人をバックアップしていきたい」とまだまだ無名の面々をマイクの前に座らせ、新たな才能の発掘を目指す。

番組を担当する芸人で、ミュージシャンの米田いにしえさんは「お金以上のつながりができる。芸人は交流がクローズドになりがちの業種だが、局には芸人じゃない人も多く、視野が広がる」と語る。新庄剛志さんもその一人。米田さんの曲を聴いた新庄さんが「この子を推したい」と発言したことから親交が生まれた。

エフエムひめで番組が始まることを新庄さんに報告したところ「ラジオ初回出るわ」と快諾。プロ野球復帰を目指していたころの2020年6月、出演が実現した。「希望球団は巨人とオリックス」とのぶっちゃけ発言で、番組はネットニュースにもなった。

ラジオが持つパワーに、地元も熱視線を送る。前出のNPO法人・ここから100代表の金山佳子さんは、子どもから高齢者まで交流できる場としてエフエムひめに期待。「子ども、ママ、おばあちゃん3世代のマッチングだったり、コロナ禍でクラブ活動ができない小学校の子どもたちのラジオ体験や、発信していける媒体になれば」と望む。

ユーチューバーや一般の人がYouTubeで気軽に動画を配信する時代に、なぜミニFMなのか、本庄さんは「電波にこだわりたいし、昭和のイメージを令和で。ノスタルジックな世界観を出したい。ラジオは動画のように、流したら終わりではない。街も混ぜて、人間くさいところをつくりたい」と熱く語る。

ビルやマンションが建ち並びながらも、下町の風景が残る東三国。みんながラジオを聴いていた昭和を思い出させる街に、根を下ろしつつあるエフエムひめ。微弱な電波にはとどまらないパワーを放っている。

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