車の下とボンネットの中にいた子猫たち
コタくん(1歳・オス)、タオくん(1歳・オス)は、2020年6月、広島に大雨が降った日の翌日の朝、鳴き声に気付いた人が保護した。鳴き声を頼りに猫を探すと、隣の家の車のボンネットの中に1匹、もう1匹は車の下で冷えきっていたという。
「おそらく母猫が雨を避けるためにボンネットの中に置いたのでしょう。1匹は車の下に落ちてしまったようですが。2匹ともまだへその緒が付いていたそうです」
幸い、その家の隣が動物病院だったので、すぐに診てもらうことができた。2匹とも瀕死の状態だったため10日間入院した。その後、保護主が預かったが、保護主も猫を10匹飼っていたため里親を募集した。やがてその話が、広島県に住む女性・Kさんのところまで回ってきたという。
自分は生き物を飼ってはいけない
写真を見たら凄く可愛かったが、最初は引き取ろうと思っていなかった。Kさんは幼い頃から動物が好きで、ハムスターやウサギ、インコなどを飼っていて、いつも家にペットがいた。
「小学6年生の頃、インコを飼い始めて可愛がっていたのですが、自分の不注意で死なせてしまったんです。すごくショックで、それ以来、生き物を飼うことはありませんでした。自分は生き物を飼ってはいけない、もう二度と飼うことはないと大人になっても思っていました」
Kさんはアダルトチルドレンだった。その影響からか高校入学直後から強迫性障害になり、30代からパニック発作や不眠に悩んでいた。自身を回復させることだけで精一杯の日々を送っていた。ときどき町で野良猫を見かけると話しかけ、ペットショップをのぞいては猫や犬に癒されていた。
5、6年ほど前から、両親の介護が始まり、当時は仕事でも悩んでいたため、自身の病気や介護、仕事で毎日気持ちが重く、辛い毎日だった。そのさなか、2018年の夏、お兄さんが癌で他界した。初めて病院から連絡を受けた時には、もう余命数週間だった。お兄さんが神奈川県で一人暮らしをしていたため、Kさんは両親を連れて何度も広島と神奈川の病院を行き来したという。
「2、3年ほど前から治療を受けていたようなのですが、私が病みながらも一人で両親の介護をしていたので、自分の病気のことは言えなかったようでした。兄は、『亡くなってから家族に知らせてほしい』とまで言っていたようで、かわいそうなことをしたと思っています」
姉妹猫に会って人生が変わる
お兄さんが亡くなった後、Kさんは従兄弟たちの助けを借りながら、慣れない土地で葬儀や様々な手続きをして、アパートを引き払い、とてつもなく悲しいのに、悲しむ余裕がないほど忙しく、心身ともに疲れ果てていた。
「もう全てを休みたいと、その年の年末に仕事を退職しました。でも、介護はやめられないので、専業主婦のような生活になりました」
2019年、お兄さんの一周忌を終え、少しずつ健康を取り戻そうと近所の川沿いの遊歩道でウォーキングを始めると、土手に数匹の地域猫がいることに気づいた。毎日会う白黒の2匹の姉妹猫がだんだん懐き、Kさんが行くと寄ってきてくれるようになったという。
「それが可愛くて、可愛くて、心から癒されたんです。そこから猫の虜になりました。ウォーキングをやめ、詩ちゃん、音ちゃんと名付けた姉妹猫と毎日1時間くらいベンチで過ごすようになりました。そのうち餌やりをしている人たちと知り合いになり、TNRに関わったり、ミルクボランティアや子猫の保護をしたり、里親さんへの譲渡も経験しました」
しかし、Kさんは、「私は生き物を飼ってはいけない」という呪縛から逃れられずにいた。加えて、介護をしていて無職で独身、心配な要素しかないため、猫を迎え入れたい気持ちはあっても、勇気や自信がなかったという。
「子猫が現れるたびに猫仲間さんから『飼ってあげて欲しい』と言われました。でも、私が飼うのは無理だと断っていました。罪悪感や迷いが常にあり、そんな自分に疲れてきた頃、コタとタオの話が巡ってきたのです」
猫を迎えて元気になれた
「可愛いね、会ってみたいね」と言ったところ、お見合いの段取りがなされ、7月、実際に会いに行くことになった。「会うと心が揺らぐもので、悩みに悩んだ末、2匹を引き取ることにしたんです」。Kさんは、8月8日(世界猫の日)にコタくん、タオくんを譲り受けた。
コタくんは好奇心旺盛で甘えん坊。いつもウロウロしては大きな声で、ニャーンではなく、ゥワーン!と鳴く。壁紙やカーテンを破るなど、何かいたずらを始めるのは必ずコタくんで、そこに残りのタオくんと後輩猫のめめちゃんが加わる。しかし、実はコタくんは、3匹の中で1番のビビり。掃除機の音が怖くて、Kさんが掃除機に手をかけただけでも逃げてしまう。
タオくんは、コタくんとは正反対。静かな子で、人より猫の方が好きなタイプだ。冬はKさんの頭の横か腕枕で寝る。甘えん坊モードになるとコタくんの耳の付け根をチュパチュパ吸うのだが、獣医師が言うには、「これは一生治らない」そうだ。嫌がるコタくんをしつこく追いかけ、無理やりにでも吸い続けるという。
コタくん、タオくんは、猫エイズ陽性だった。ショックだったが、子猫は母猫の抗体が残り、偽陽性になることがあると聞いていたので、生後半年の時、去勢手術をする時に再検査をしてもらうと、2匹とも陰性になっていた。
「ちょうどクリスマスの頃だったので、陰転は最高のクリスマスプレゼントになりました」
いま、Kさんはすっかり元気になり、2匹にごはんを与え、一緒に遊び、必要な医療を受けさせている。先々のこともちゃんと考えているという。
「両親の笑顔も増え、私自身も回復し、猫を迎え入れて良かったと思っています。家の子も外の子もみんな幸せになって欲しいと願っています」