“番長”のリアル高校時代は「生徒会長」だった!? 37歳で“現役高校生”「なつぞら」の板橋駿谷が醸す「ピュアさ」の裏側

石井 隼人 石井 隼人

その男、30代で高校生を3度も演じている。1度目は朝ドラ『なつぞら』(2019年)。2度目は映画『サマーフィルムにのって』(8月6日公開)。3度目は映画『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(8月20日公開)で。学生役の限界年齢を更新し続ける現在37歳の俳優・板橋駿谷にとって、学生服はもはや「戦闘服!」なのだという。大人っぽい役柄に憧れ、脱・学生役を願う若年俳優たちの姿を横目に「俳優として求められるのならば、いくらでもやりますよ!コスれるだけコスりたいと思っています」と学生役生涯現役の誓いを立てている。

『なつぞら』で番長こと門倉努を演じたのは34歳のとき。役柄と実年齢のギャップに加えて、ただならぬオーラで一瞬にして話題の人となった。それまで小劇場を主戦場にしてきた板橋にとって初朝ドラ。「初登場放送日の2019年4月22日を境に、俺の人生は全く別物になりました。たくさんの方から連絡が来ましたし、みんなが『番長!』と呼んでくれた。何より嬉しかったのは、おばあちゃんに電話をしたら『良かった…』と泣いてくれたことです。この日は一生忘れないと思います」と俳優生活の分岐点だと実感している。

番長が見た目のインパクトだけの出オチキャラで終わらなかったのは、板橋持ち前の俳優としての底力ゆえ。「今まで通り台本を読み込んで構築して、芝居も特別気負ってやったわけじゃないのに世間の反応はここまで違い、色んな方面からお仕事の声がかかるようになり、とにかく驚きました。ここからやっとスタートだという気持ちになりましたし、ここに辿り着くまでに頑張って続けてきたことを止めないぞ、と自分に誓いました」と継続こそ成功への近道だと信じて歩んできた。

高校生は高校生って事を意識して生きていません

それから3年、37歳にして『サマーフィルムにのって』で再びの高校生役。学生服に袖を通して思ったのは「学生服って戦闘服!」という感慨で「大人にならないと分からない感覚だろうけれど、何故か着ると無敵になった気がする。高校生の頃は、何でもできる!と思っていたからかもしれませんが、自然と気持ちが明るくなるんです」と未踏の感覚を味わうこともできた。

演じたのは、時代劇映画を作ろうとする高校生のハダシ(伊藤万理華)からスカウトされる同級生のダディボーイ。思春期とは思えぬ浮世離れしたサムライフェイスと低音ボイスの持ち主で、筋骨隆々の肉体を前面に押し出した筋肉バカぶりが笑いを誘う。そのピュアさの表出が実に巧みで、10歳以上も年の離れた高校生役の共演者と板橋が違和感なく溶け込む様もユーモアとして効いている。

「現場に馴染めたのは周りのみんなのおかげです。俺よりみんながとても大人でした。それは年上って感覚が俺になかったからだとも思います」と年下の共演者をリスペクトしながら「役としては高校生だからこうだとか決めつけないように心がけました。朝ドラの時もそうでしたが、高校生は高校生って事を意識して生きていませんから。台本に書いてあるキャラクターの性格のありのままの感覚を、味付けしないで演じました」と勘の良さも吉と出た。

卒業式では総代を務めるほどのエリート

俳優人生での高校生役は個性的なキャラクターばかりだが、実人生では優等生。リアル高校時代は生徒会長を務め、卒業式では総代を務めるほどだった。「高校時代かあ…。懐かしい…」と急にアラフォーに戻る板橋は「生徒会長としてやっていたのは朝の挨拶、目安箱、活動報告の新聞などです。挨拶を徹底しようと、誰よりも早く校門の前に立って挨拶を全校生徒にする。生徒の意見を汲み取って先生に意見を伝え、学校生活をより良くする目安箱。校則がめちゃめちゃ厳しい学校で、どうにか文化祭で盛り上がる事をやりたかったので、学年毎に自慢大会をするという案が出て、それを通すのに上手くいかなくて4時間ほど学校側と交渉。実現させました」と見た目通りに熱い高校生活を送っていたようだ。

先頭に立って道を切り拓いてきた経験は、現在の俳優業にも活きている。「高校時代は面白い事をやろうとすると、厳しい校則とのせめぎ合いが始まり、ほとんど毎日、副会長と職員室で怒られていました。校則を破って面白い事をやりたい訳じゃなくて、先生も巻き込んで校則の範囲内で面白い事をやる事に意味があると思ったので、常に戦っていた気はします。それが今、芝居をやる時に、やり過ぎかな?ここまでなら大丈夫かな?と作品のリアリティラインを探っていく感じに似ている」。

『サマーフィルムにのって』は評価が高く、海外の映画祭での上映が続々と決まっている。中には板橋の存在感とユーモアを絶賛する声もあり、板橋は「海を渡った先でも楽しんでくれる方々がいる事に驚きと感謝しかありません」としみじみ。憧れる海外の俳優はトム・ハーディ、マット・デイモン、マ・ドンソクで「明らかに俺より全員筋肉がありますが、愛嬌という点では負ける気がしない」といつか肩を並べてみたいと思う。

30代半ばにして学生役でインパクトを残す一方、バイプレイヤーとして様々な作品に顔を出している。「佐藤允さんの愛嬌と軽やかさ、菅原文太さんのインパクトと凄み、三船敏郎さんの渋みと色気、挙げたら切りがないですが、とにかく芝居を見てもらってワクワクドキドキしてもらえる俳優になりたい」と目指す高みは本格派。

ラッパーとしての顔も持ち、作詞とラップ指導を担った舞台『オイディプスREXXX』では、第26回読売演劇大賞の優秀スタッフ賞を受賞している。ならば『サマーフィルムにのって』の魅力をライムでアピールしていただこう。

「照りつける太陽 ハダシで駆け巡る少女 誰かを支えるビート板とバタ足の音 パラソルの下、煌くブルーハワイの色 暴れ出す青春の喧騒 繋いでく映像 失敗、成功、想いと気温上昇 ライツ、カメラ、アクション さぁ、夏がスタート!『サマーフィルムにのって』よろしくどうぞ!」。気持ちは永遠にティーンエイジャー。俳優・板橋駿谷の辞書に“限界”という文字は、ない。

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