ルパン三世と銭形警部、武田信玄と上杉謙信、レアル・マドリードとFCバルセロナ、そして、たけのこの里ときのこの山。洋の東西を問わず宿命のライバルは多々挙げられますが、うどんとそばも互いが認める好敵手。和食の麺の座をめぐってせめぎあう両雄の勢力図がSNSで話題です。覇権をかけた戦いの火ぶたが切って落とされました。なお、越前おろしそばで育った記者はそば派です。
「関東はそば、関西はうどん」と大まかに分類される東西の麺文化。歴史関連の著書がある小林明さんが「ニッポンドットコム」に寄せた「守貞漫稿」(もりさだまんこう:江戸期の商人喜田川守貞が三都(江戸・京都・大阪)の風俗、事象を説明した百科事典)に関する記事によると、江戸に蕎麦(そば)を提供する飲食店が登場したのは17世紀中ごろ。一方の同じころの上方では、蕎麦より温飩(うどん)の人気が高く、屋号も「温飩蕎麦屋」だったそうです。
2万超のいいねが付いた両雄の勢力図を作ったのはツイッターユーザーのにゃんこそばさん(@ShinagawaJP)。これまでもネットで得られる情報を用いてオリジナルの統計地図をアカウントに投稿しており、「海面が100メートル上昇した時の日本列島の形」や「コロナ禍で指摘される東京脱出の検証」などが話題になりました。
勢力図にはiタウンページ(NTTタウンページ)に登録しているうどん店(17999件)、そば店(18978件)のデータを引用。うどん・そば合計5件未満の市区町村を除き、うどん店が2倍以上は赤エリア、そば店が2倍以上は緑エリア、同数をベージュにするなど強弱に応じて濃淡をつけました。なお、電話帳の掲載は、店側が業種を選べ、複数選択もできるため、例えば、ほうとう屋さんが「うどん店」「ほうとう店」、沖縄そば屋さんが「沖縄そば店」「沖縄料理店」「そば店」で登録している場合も考えられます。
赤(うどん)と緑(そば)の勢力はいかに。赤やピンクのスポットがあるものの、東日本は長野、新潟、秋田を軸にそばの勢力下。一方、うどんは大阪湾や瀬戸内海に沿って強みを発揮しています。
東京大阪間にズームした地図を見ると、際立つのは日本三大そばの一つ、戸隠そばを擁する王国長野。しかし隣国・愛知では県東部から早くも逆襲の狼煙が。きしめんを勢力下に収めたうどん勢の反転攻勢でしょうか。関西圏ではやはり大阪、京都、神戸の主要都市をしっかりカバー。圧巻は香川。うどん県の名に恥じないうどん率です。瀬戸内海に面した県が赤やピンクに染まる様子は、源平合戦の平氏を思わせます。
両雄入り乱れる首都圏はどうでしょう。東京23区すべてを手堅くまとめたそばがやや優位に立つものの、見逃せないのが埼玉と山梨東部。ともにそば大国長野に接していますが、埼玉は広範囲にうどん支持を集め、東のうどん県として存在感を発揮しています。
投稿された分布図には、双方の支持者から推しのうどん、そばがコメントされ、「西から東に移ってうどん不足に悩まされていたのが、確信できた!」「アホバカ分布図を思い出す」などと反響を呼んでいます。にゃんこそばさんに聞きました。
―地図からいろんな想像を楽しむことができました
「西日本はうどん、東日本はそば文化といった一般的な知識は持っていましたが、具体的にどこから蕎麦圏になるのかは知りませんでした。北陸がそば優勢、埼玉・山梨東部がうどん優勢といった結果に驚きました」
―コメントや引用ツイートにも興味深い内容のものがあります
「興味深いコメントをたくさんいただき、私自身多くの気づきを得ることができました。埼玉や東京都中西部、いわゆる武蔵野台地は赤土で水はけが良く、稲作よりも小麦を育てるのに適していたそうです。山梨にあるうどん圏は、富士山麓の火山性の土壌から必然的に生まれた、ということを知りました」
―そば圏に飛び地のように赤いエリアがあったり、その逆もあったりします
「能登半島の付け根がぽつんと赤いのは、富山の氷見うどんが考えられます。ですが、この氷見うどん、うどんと名付けられているものの、能登半島のそうめんの製法を模倣して作られたそうです。関西文化が伝播したというより、そば文化圏に生まれた独自の食文化のようです。秋田は稲庭うどんが有名ですので、真っ赤に塗られると思っていましたが、地産地消というより全国に出荷されているようで概ね均衡する結果でした。うどん優位の西日本では、兵庫県北部(出石そば)、島根県東部(出雲そば)、徳島県(祖谷そば)の存在が目立ちます」
―ハンドルネームがにゃんこそばということは…
「北日本の家系に生まれ育ったこともあって小さい頃からそばに慣れ親しんできました。一方、九州に赴任していた頃によく食べた五島うどんや、大阪の薄口しょうゆのうどんも好きで無性に食べたくなることがあります。今回はうどん・そばの二項対立で可視化しましたが、うどんエリアのそば店、そばエリアのうどん店、どちらもすばらしいものを出してくれますし、今後も共存共栄してくれるといいなと思いました。結論は…甲乙付けがたいところです」
地理と統計という2つの分野に関心があるにゃんこそばさん。両者を組み合わせて「カルトグラム」(地図によるデータの可視化)という形で表すことで、新たな気づきが得られたり、日々ぼんやりと感じていたことが裏付けられたりして物事への見方が変わってくることに気づいたそうです。ツイッターアカウントで話題を発信しています。