大阪府に住むプロボクサー・島川大器さん(36)は、2020年5月に心筋梗塞で急逝した母が残した猫18匹の世話をし続けている。支援の輪が広がり、月15万円かかる家賃やえさ代などにメドがついた矢先、18匹の猫だけが住んでいる“猫家”に立ち退き問題が浮上。府内に新天地を求め、引っ越しすることになった。
18匹の猫たちはすくすくと、まるまると育っていた。ごはんの時間になると、しっぽをピン!と立てながら島川さんのもとに近づいていく。悪戦苦闘しながらも、母の形見となった猫と向き合った1年。「助けていただいたという言葉に尽きる。皆さんに支えていただいて、乗り切ることができた」と振り返った。
SNSやYouTubeなどで島川さんを知った全国の人から、キャットフードや猫砂などの支援が届いた。「ごはんだけで月3~4万円かかるところを、病院代に回すことができている」。月15万円かかる費用。島川さんがプログラマーの仕事をすることで充てていたが、今では支援品やYouTubeの広告料などで、月5万円分ほどがまかなえるまでになったという。
里親の申し出もあったが、譲渡には至らなかった。「自分の支出が減ったとしても、それでも猫の世話代だけで10万円は稼がないといけない。この子たちの世話の時間も増えるから、ボクシングの時間を削らざるを得ない」と、本業のプロボクサーは休業したまま。朝、晩の3~5時間を世話にあて、猫中心の毎日を送っている。
キャットタワーが立ち、思い思いの場所で18匹の猫たちがなじむ“猫家”だが、夏までに立ち退かざるを得なくなった。YouTubeで事情を説明したところ、視聴者から移転先として古民家のオファーが舞い込んだ。法律にのっとった動物の収容施設にしなければならないため、工事をしているという。
工事費用は約300万円。島川さんが借金することでまかなうこととなり、古民家をオファーした視聴者の意向もあってクラウドファンディングも始めた。新しい猫家で、猫たちが自分でお金をつくることができるようにしつつ、愛護活動の拠点にしたいと話す。
亡き母への思いが、原動力になっている。「守らないとあかんというか。他の親族はこの子たちを見捨てたので僕しかいない」。現在猫たちが住んでいる家は、島川さんの母が住んでいた家だった。母の死後、多頭飼育崩壊が発覚。家の2階で悲惨な環境にいた18匹の猫を、島川さんが発見した。
トラブルに見舞われ、猫の面倒を見切れなくなっても、母は島川さんを頼ることはなかった。「より母のことを強く思えるようになったのは、僕を頼ってくれたらいいのに頼らなかったところ。母にかけた言葉が重かったのか…」と振り返る。島川さんは自身の挙式の際「老後は面倒を見るから、それまでは自分の好きにさせてくれ」と、経済的に自立することを促す手紙を渡したという。
家庭を持つ決意として、母に送ったなにげない言葉。結果的に助けを求めづらくさせ、何もかも一人で抱えさせてしまったことを島川さんは後悔する。亡き母が、肌身離さずその手紙を持っていたことを遺品整理の際に知った。猫に気づかされた肉親への思い。自身に向けられていたであろう母の愛情を、形見となった18匹の猫に注いでいる。
亡き母の家を離れる寂しさはあるが「この子たちがいることで、前向きに進めるような移転にしようということを考えて決意した。移転することでいい風に動けばいいなと思っている」とステップアップを目指す。8月にも18匹の猫とともに、新天地へ向かう島川さん。「お金で倒れることは防ぎたい。この子たちがお金をつくることができて、自分達で生活できるようになれば」と夢を語った。
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