大きなまぐろに刀を差し込み、ダイナミックに解体していく女性。力強く、かつ丁寧にさばいていく姿を観衆は固唾をのんで見守る。無事にまぐろをさばけるのか、果たして……。ついにまぐろを解体できたときの女性の笑顔に、観衆からも思わず笑みがこぼれ、一体感が溢れる。
「まぐろの解体師」と聞けば、大抵の人は男性を思い浮かべるのではないだろうか。しかし大阪には「まぐろヴィーナス」を名乗る女性の解体師が存在するのだ。
まぐろヴィーナスを生み出したのは、JAPANまぐろエンターテインメント(JME)代表で、関西まぐろアカデミーの代表でもある小野田栄一さん。「日本の食文化を世界に発信したい」という思いから、2018年、まぐろの解体ショーを始めた。
今やまぐろは希少性の高い魚になっており、値段も上がっている一方、中国では消費量が増えているという。小野田さんは「まぐろを日本の食文化として捉え、解体から調理まで行うことで海外にもアピールしていきたいと思っています」と話す。解体後に提供するまぐろキムチや、ユッケにしてごまと混ぜたものなどの料理も好評だという。
「解体師によってパフォーマンスの特徴やキャラクターに違いが出るんです」と小野田さんは言う。ダンスを取り入れたような動きで展開していく人や、黙々とまぐろに向き合い解体する人など様々。また解体中に部位などの説明をする必要があるため、解体師がそれぞれのタレント性を打ち出すのもショーの魅力につながっているという。
まぐろヴィーナスになるには、小野田さんの運営している専門スクールに通う必要がある。
「まぐろの種類や歴史などの座学、そして解体方法などの実習を経て、“誰よりもまぐろに詳しい女性”を目指します。半年間のカリキュラムを修了すれば、まぐろヴィーナスになることができます」
卒業と同時に、女性たちは記念に着物と刀を授与される。「ここで、やっと解体師として一歩踏み出すんだ、と改めて決意を固める方は多いですよ」
「日本文化を海外に発信したい」という思いが実を結び、ドバイ万博やF1ベトナムグランプリなど海外のイベントから招待を受けたが、今は新型コロナウイルス禍。残念ながらどれも実現せず、悔しい思いを味わったという。
それでも小野田さんは「今後はスクールの様子や過去の解体ショーの様子など、動画でも活発に発信していきたい」と前を向いている。
■まぐろヴィーナス:https://www.magurovenus.com/blank