失踪から5年!愛犬家の粘り強い努力で、帰ってきた迷子犬 新しい家族と3匹で幸せ街道を歩く

岡部 充代 岡部 充代

「迷子」「犬」「猫」といったキーワードでインターネット検索すると、世の中には本当にたくさんの迷子がいることに気づかされます。元保護犬のくまくんも迷子でした。なんと5年間も!

 くまくんは鹿児島・徳之島生まれ。保健所に収容され、2016年1月に大阪で犬の保護・譲渡活動を行う市民ボランティア「犬の合宿所in高槻」(大阪府高槻市)に引き取られました。ところが、その年の3月4日、京都市左京区の預かりボランティアさん宅から脱走してしまいます。最初は銀閣寺周辺の山で目視できたそうですが、その後、行方が分からなくなりました。

 

 くまくんに関する情報が久しぶりに寄せられたのは今年1月末のこと。脱走当時に作った迷子チラシに掲載されていた連絡先に電話が掛かってきたのです。

「2017年11月頃から家の近くでくまくんに似た犬を見掛けます。朝5時~6時頃と夜10時頃。複数の人が見ています」

 電話の主は京都市上京区に住む鈴木善貴さん、容子さん夫妻でした。17年11月のある日、家に遊びに来た息子さんが「なっちゃん、逃げてない?」と聞いたそうです。なっちゃんとは、その年の6月に迎えた愛犬の名前。でも、なっちゃんは家にいました。息子さんは「そっくりな子がウロウロしていたから」と説明したそうです。すると…。

「年明け、4~5人から『なっちゃんを見た』と言われたんです。主人も夜によく似た犬を2回見て」(容子さん)

 そのうち朝も見るようになり、いつしか鈴木家ではその子のことを「いとちゃん」と呼ぶようになりました。「もし保護できたらウチの子にと思ったんです。それで『赤い糸』のいとちゃん」(容子さん)

 鈴木夫妻は“餌付け”も試みましたが、食べるのはいつも猫やカラスでした。

 

 では、なぜその犬がくまくんではないかと思うようになったのか。実は、近所に『犬の合宿所』から犬を迎えたご家族がいて、「この子じゃない?」と迷子チラシの画像を見せてくれたのです。

「チラシの写真を見ると、たしかによく似ていました。いなくなった場所から十分に移動できる距離ですし、すぐに電話したんです」(善貴さん)

 情報を得た関係者はすぐにカメラを設置。しばらくして、写真と動画から「くまくんに間違いない!」という結論に至りました。さあ、捕獲大作戦のスタートです。幸い、くまくんはそのエリアに定着していたので緊急性はありません。むしろ刺激して離れないよう、「焦らず慎重に」がキーワードでした。

 有力な映像が撮影できたのは、カメラ設置から約2週間後。深夜2時頃、一人の女性がカメラの前を通り過ぎると、くまくんがその後を追いかけているように見えました。同様の映像は10日後の同じ時間にも。

「あとで分かったことですが、猫のエサやりさんが毎日その時間に通っていたんです。実は犬が苦手で、くまくんを追い払うために後ろに向かって鶏肉を投げていたそうなんですけど(笑)。くまくんはごはんをもらえると思ってついて行ったんですよね」(容子さん)

 女性を特定できたのは善貴さんが2日間、半徹夜で張り込んだから。捕獲への協力も依頼できました。

 

 その後も慎重に、捕獲器設置予定の場所で餌付けを続け、設置してからも時間を掛けて…3月15日午前2時半、とうとうくまくんを保護することができました。失踪から5年。「66歳にして、こんな達成感を味わえるとは思いませんでした」と善貴さんが言えば、容子さんは「5年間どうやって生き延びてきたのか…強い生命力と運を持った子ですよね」と笑顔を見せました。もちろん“運”だけではありません。犬の合宿所の関係者はこう話します。

「3年半もの間、定着した地域の皆様に見守られ、養っていただいたおかげです。保護に向けて動き出してからも、毎日の餌付けから複数の監視カメラのチェック、その情報を元に翌日の作戦を練り、工夫を凝らして…ほとんどすべて京都の皆様が行ってくださいました」

 

 くまくんは今、「いとくん」と呼ばれています。そう、鈴木家の子になったのです!今年に入ってラビくんという2匹目の犬を迎えており、最初は預かりボランティアとしてくまくんのお世話をしていました。5月下旬には犬の合宿所に送り届けることが決まっていたのですが…。

「諸事情で延期になったので、流れを受け入れようと思ったんです。あまりに幸せそうに賀茂川沿いを散歩するくまくんの姿が愛おしくて。長い間ひとりで頑張ってきたから、これからはなっちゃん、ラビくんと一緒に幸せ街道を歩いてもらいます」(容子さん)

 ご近所の犬友さんが散歩の協力を申し出てくれたことで、3匹目を迎える決断ができたという鈴木さん。やはりくまくんは地域のみんなに愛されていたのです。5年間も“野犬”暮らしをしていたにもかかわらず、捕獲時に首輪やリードを無理なく着けられ、毛並みも皮膚の状態も良好、驚くべきことにフィラリアは陰性で、内臓機能も何も問題なかったと言います。それだけヒトに優しくしてもらっていたのでしょう。

 おかえり、くまくん!いえ、いとくん!お父さん、お母さん、なっちゃん、ラビくんと幸せに!

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