「生理がこないから使えない」と繁殖業者が手放したチワワ 生まれて初めての散歩は、まるで子犬のようだった

渡辺 陽 渡辺 陽

生理が来ないからいらない

ピノちゃんはLEBENDという保護団体が繁殖業者から保護した子だった。LEBENDでは、この繁殖業者から少しずつ犬を保護していて、ピノちゃんとともに5匹の犬を保護したのだが、ピノちゃんと姉犬は、「生理がこないので繁殖に使えない」と言って手放したそうだ。多くの犬たちは声帯を切られていたが、ピノちゃんは無事だった。しかし、劣悪な飼育環境にいたため、体中の毛が抜けてはげていたという。ちなみに、この業者はまだ廃業にはいたっていない。粘り強い交渉や駆け引きが必要だ。

2021年2月に保護された後、ピノちゃんは預かりボランティアのところに行き、里親を募集した。

待ち遠しいお見合いの日

竹内さんは、くーちゃんというチワワを飼っていた。くーちゃんが10歳になり、子供たちも手を離れたので、そろそろ2匹目を飼いたいと思っていた。ホームセンターに行った時などにペットショップをのぞいてみたが、なかなか踏み切れずにいたという。
「やはり一つの命ですから、洋服や鞄のように『可愛いから、今欲しいから買う』ということはできなかったんです。責任を持って育てたいので、『この子』と思える子に出会えるまで急がずに考えようと思いました」

竹内さんは、時間のある時にネットなどで犬を探した。やがて保護犬の存在を知り、次に迎える子は保護犬にしようと思ったという。

LEBENDのインスタグラムを見てピノちゃんを見つけた竹内さん。悩みに悩んで、3月18日の夜、LEBENDにメッセージを送信。5日後に自宅でピノちゃんとお見合いをした。
「お見合いの日が待ち遠しくて、預かりボランティアさんのインスタグラムで、一日に何度もピノの様子を見ていました」

23日、LEBENDの代表がピノちゃんを家まで連れてきてくれた。先住犬のくーちゃんは10年間一人っ子だったので心配したが、クンクンにおいを嗅ぎ合っただけで、一緒に遊ぶこともなかったがケンカもしなかった。

ケージから出てこない

4月6日にトライアルが始まり、2匹の相性に問題がなかったので、1週間後に正式譲渡してもらった。

ただ、ピノちゃんは初日から10日間、ゲージから一歩も出てこなかった。自由に出入りできるようケージの扉は開けっ放しにしていたが、まったくベッドから動くことがなく、吠えることもない、まるで置物みたいだったという。竹内さんは、ピノちゃんが自らケージから出てくるのを待った。
「『ピノは退屈じゃないのかな?』とか、『今まで小さなゲージの中で暮らしてきたから、ゲージの外に出るのが怖いのかな』とか色んなことを考えました。ピノの負担にならないよう必要最低限の世話をして、そっと見守りました」

名前は里親募集当時から変えなかった。繁殖業者からLEBENDに来て、預かりボランティアのところに移り、竹内さんの子になったピノちゃん。あちらこちら転々とした上に、名前まで変えるのはしのびなかった。

散歩が楽しくて、楽しくて

竹内家に来て1カ月ほど経ったが、ピノちゃんは、膝の上に乗せたり抱っこしたりしようとすると逃げてしまう。しかし、竹内さんが帰宅した時や散歩の支度をしている時、ごはんの用意をしている時は、すごく喜んでくれる。

ごはんとおやつが大好きな食いしん坊。先住犬くーちゃんはゆっくり食べるが、ピノちゃんは超早食いで、食べ終わると、ゆっくり食べているくーちゃんの後ろ姿をじっと眺めている。
「横取りはしませんが、早く食べないといけない環境だったのかなと思うと少し切なくなります」

2週間後、竹内さんは初めてピノちゃんを公園に連れて行った。怖がりのピノちゃんに散歩なんてとても無理だと思ったが、リードを着けて地面に降ろすと、スタスタ歩いていろんなところの匂いを嗅ぎ始めた。
「生まれて初めて散歩したのですが、まるで子犬みたいに喜んで、涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。最初は無表情で尻尾も振らない子でしたが、今では毎日散歩に行くのをすごく楽しみにしています」

竹内さんの家族は、いつもくーちゃんとピノちゃんの話で盛り上がる。
「普通のワンちゃんらしくのびのびと幸せな犬生にしてあげたいと心から思っています。ピノが来てくれて、ささやかな幸せがたくさん増えたことにも感謝しています」

竹内さんはピノちゃんに、「うちに来てくれてありがとう!これからもっともっと思い出作ろうね!」と心の中で語りかけている。

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