コロナ禍で押しつぶされそうになる女性たちの営みを描いた『女たち』(6月1日公開)の公式サイトには、著名人たちの激賞コメントが鈴なりだ。企画を立ち上げたのは、バイオレンスノワールの傑作『GONIN』シリーズや映画監督・北野武を生み出したことで知られる名プロデューサー・奥山和由。その号令のもと、篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子ら女優陣が心に爆弾を宿した女たちの限界寸前の精神を体現した。身も心もハードな撮影で「円形脱毛症になりました」と打ち明ける主演の篠原に話を聞いた。
演じたのは、半身不随の毒母に支配される一人娘・美咲。緑豊かな山あいの町で、男に騙され、親友も失う。コロナ禍の不穏な空気に神経は張り詰め、母に対する積年の思いがついに爆発する。
篠原は内田伸輝監督とともに、脚本作りにも参加。「美咲が抱えるものと私自身の中にある感情をすり合わせながら、役柄に反映していきました。脚本作りに参加できたことは美咲を理解する上でも役立ったし、その半年間が役作りの準備期間にもなりました」と思い入れは強い。それだけに「撮影終了後しばらく、自分の中から美咲が抜けなくて…」と苦労もあった。
親友の香織を倉科カナが務めた。養蜂場を営む香織は美咲にとって唯一のユートピア。しかし香織もまた、ふさぐことのできない空洞を心に潜めていた。倉科は役作りのために長髪を40センチもカット。「お会いする前は、私が抱いていた明るく元気な倉科カナさんのイメージと役柄が一致しませんでした。でもいざお会いした途端『おおお!』と。倉科さんが演じる香織の感触がつかめたことで、美咲が脚本からさらに立体化されたような気がします」と感謝する。
毒母・美津子を渾身の表現力で生み出したのは、高畑淳子。美津子と美咲は四六時中いがみ合う仲だが、関係性は共依存そのもの。感情のタガの外れた二人による取っ組み合いの大喧嘩は、さながら二大怪獣大決戦。
「喧嘩をするシーンは、本番を迎えるまで本当に怖かったです。でもそれまでの撮影の中で高畑さんとの信頼関係はできていたし、高畑さんも『どこからでも来い!』というような大きな胸を貸してくださいました」と思い切りぶつかることができた。
壮絶バトルで体中に“勲章”が…
その勲章は体の至る所に現れた。「撮影後は体中アザだらけ。泥も投げたので砂利が指と爪の間に詰まって地味に痛い。裸足で外に出て泥をフルスイングすることなんて普段ないので、腕も足も痛い。リアル泣きで投げていました。今振り返ると面白い経験です」と満更でもない。
撮影は緊急事態宣言が明けてしばらくした昨年の7月に敢行。ただでさえフラストレーションが蓄積していた中で作品の重苦しいテーマも相まって、芝居のレベルを超えた感情の発露があったという。「もの凄く疲れました。円形脱毛症にもなったし、しばらく『女たち』のことを思い出すのも嫌になるくらい。ここまでの労力と精神力を使った作品は初めて」と身も心も捧げた撮影になった。
ピンチを逆手に取った、とも言い直せる。「そもそも撮影できるの!?と思ったし、映画業界も中止や延期が相次いだ時期だったので、撮影隊の中でコロナが出たらどうしよう!?という不安もありました。でもそんな逆境だったからこそ、フラストレーションを全部出してしまえ!という強い気持ちもありました。奥山プロデューサーの映画は、攻めざるを得ない星のもとにあるのでしょうか?」と今だからこそ笑い飛ばせる。
止まない雨がないように、『女たち』の淀んだ景色にも最後は一筋の陽光が差し込む。「生半可な作品ではありません。その自信は十分にあります。私自身も汚いところをすべてさらけ出し、顔も大変なことになっています。しかしそれも含めて、死に物狂いで生きる人間の逞しさに昇華されています。人間誰しも、辛い時は辛い。その弱さを素直に認めたときに初めて寄り添ってくれる人が現れる。その誰かを見つけることができたら、どんな状況下でも強く生きていける気がします」。コロナの時代を生きる人々の道標のような映画が完成した。