米軍のアフガン撤退で国際テロの脅威が再燃か テロと中国の板挟みになる恐れも

治安 太郎 治安 太郎

バイデン大統領は4月14日、ホワイトハウス内で講演し、米国建国史上最長の戦争となったテロ戦争を終結させる時が来たとし、9.11同時多発テロから20年となる今年9月11日までにアフガニスタン駐留米軍を完全撤退させると表明した。この決定について、バイデン大統領はアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンを殺害し、アフガニスタンをアメリカに対する攻撃の拠点に二度とさせないという目的は達成されたと意義を強調した。また、バイデン大統領は2週間後の4月28日に施政方針演説を行い、ビンラディンに裁きをもたらし、アルカイダの脅威を低下させ、部隊を帰還させる時が来たと同様の主張を展開した。しかし、この20年、米国は多くの金と人を戦場に展開したが、現時点でもゴールが見えないのが現状で、エンドレスウォー(endless war)とまで言われる。アフガニスタンにはピーク時10万人規模が駐留していたが、今回の米軍の完全撤退は何を意味するのだろうか。

まず、これによってアフガニスタンの治安がさらに悪化する恐れがある。米国と反政府勢力タリバンは去年2月、今年5月1日までに外国駐留軍が完全撤退することを含む和平合意を結んだが、現地で戦闘やテロが絶えないことから、バイデン政権は5月1日までの完全撤退は難しいという認識を示していた。一方、タリバン側は9月11日までというバイデン政権の今回の決定に対して反発しており、和平合意どおり5月1日までに撤退することを求め、撤退しなければ攻撃を続ける趣旨のコメントを発表している。

米軍と同じようにNATO加盟国も7000人規模を駐留させている。NATO加盟国も9月11日までの撤退を表明しているが、アフガン政府軍が駐留軍の支援なしにタリバンの攻勢を食い止めることは困難だろう。現時点でタリバンはアフガニスタン全土の実に52%を支配しており、政府軍がタリバンの攻撃によって逃げ出した地域も少なくない。米軍部隊の完全撤退は、政府軍の弱体化とタリバンの優勢を加速化させ、さらにタリバンが支援する国際テロ組織アルカイダに活動できる自由な聖域(safe heaven)を与える恐れがある。

完全撤退の後すぐにアルカイダが以前のような脅威になることはないが、アフガンの混乱が中長期的に続くと、アルカイダがアフガニスタンで組織を立て直し、中東やアフリカ、南アジアなどで活動するアルカイダ系組織も士気を高め活動を活発化させる可能性もあろう。

また、米軍の完全撤退は別の意味を持つ。バイデン政権になり、米中対立は新たなフェーズに突入している。バイデン政権はトランプ政権と違い、英国やフランス、日本やオーストラリアなどの同盟国と多国間主義で中国に対抗していくスタンスだが、今回の完全撤退発表の裏には、バイデン政権の中国に対抗していくという強い意志が見え隠れする。米軍が対テロ戦争からインド太平洋地域にシフトするという今回の決定は、中国にとっては強い政治的メッセージとなったことだろう。

以上2つの意味を捉え、1つ懸念されることがある。それは、アフガンからの完全撤退によって国際テロの脅威が再び強まり、米国がテロと中国の狭間に陥り、バイデン政権の安全保障政策が中途半端になってしまうことだ。中国の軍拡が進むなか、バイデン政権が対中国を第一にしていくことは間違いない。しかし、その情勢の中でテロの脅威が徐々に盛り返し、米国がテロ情勢を気にしながら対中国に従事するようになると、抑止力としての米国が機能しなくなり、中国の海洋覇権などがいっそう進む恐れもあろう。

米国の安全保障政策の中で、テロ問題と中国問題がどこまで相互作用があるかははっきりしない。しかし、今回、バイデン政権が完全撤退を表明した背景には、イスラム過激派の脅威が依然として残っているとの認識はあるものの、中国の脅威がもの凄いスピードで増大していることがあるのだろう。

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