やわらかい陽の光で昼間ウトウトと眠たくなる季節、楽しみなのは桜の開花宣言ではないでしょうか。僕は毎年この時期になると、満開の桜ともうすぐ無くなりそうな車両や蒸気機関車を撮りに全国各地へ行きたくなる病気にかかります。
しかしコロナの影響で、今年も昨年と同様自由に撮影へ出かけられません。そんな時だからこそ、僕が今まで撮影した中でぜひおすすめしたいスポットを紹介していきます。鉄道と桜が実にマッチするんです。
まず神戸から近くて、桜スポットが多い福知山沿線です。 JR福知山線は宝塚を過ぎてから山間部に入り、武庫川や篠山川などを縫うように北上。 川沿いには桜が無数に植えており、春になるとほんわかした優しいピンク色に染め上がります。
その風景と相性抜群だったのが、183系・381系というクリーム色に赤色のラインが入った国鉄型の特急電車「こうのとり」でした。 大阪から福知山・城崎温泉を結んでいましたが、残念ながら183系は2013年に、381系は2015年に相次いで引退。今は新型車両が担って走っており、沿線は当時のまんま。是非遊びに行ってみてください。桜の中を走り抜ける感動を味わえます。
東の"川"も負けていません。 静岡県にある東海道の難所の一つ、大井川は「箱根八里は馬でも越すが 越すに越されぬ大井川」と詠まれたほど、流れの速い大きな川です。上方落語の東の旅『七度狐』の冒頭にも出てくるんですよ。
金谷駅と千頭(せんず)駅を結ぶ大井川鐵道は、空が青く澄んだ日には富士山がクッキリ見え、お茶畑を眺めながら大井川に沿って走ります。この茶畑で採れる川根茶は、県内でも有名なブランド茶で、食堂で入れてくれるお茶でもビックリするほどウマい!
春は桜が綺麗で、沿線は一面ピンクに染まります。そこへなんと!蒸気機関車が昔のまんまの客車を牽引して走ってくるではありませんか。しかも、その姿をほぼ毎日のように見られるのです。
小さな機関車ですが、C11-227・C11-190・C10-8・C56-44の4機が在籍していて、地方鉄道の中では所有数が国内最多。夏やクリスマスになると黒い機関車がイメチェンして、クレイアニメでお馴染みのトーマスやジェームスに変身したりもします。
蒸気機関車といえば、第三セクター若桜鉄道の若桜駅。兵庫県宍粟(しそう)市にある中国自動車道・山崎ICから車で1時間ほど北上します。若桜と書いて"わかさ"と呼び、福井県の若狭ではなく、鳥取県の山間部にあります。
名前の通り"桜"並木があり、満開の中、駅構内をC12-167が汽笛を鳴らして走っています。実は、ここの蒸気機関車は他とは違うんです。一般的にSLは、石炭を燃やして水を沸騰させ蒸気の圧力で動きますが、そうなると検査も含めて莫大な費用がかかります。
そこで採用されたのが、コストが安いコンプレッサーによる圧縮空気で動く"空気機関車"。 車籍が無く、車検を通っていない車と一緒なので、走らせることができるのは駅構内のみ。または本線の踏切などを閉鎖して警備員を配置し、保線用車両などと同等の扱いで乗客を乗せずに走らせるだけだそうです。
そんな若桜のSLがたった一度だけ、地方創生の「社会実験」で、若桜駅から八東(はっとう)駅までの区間ですが、夢の本線走行を実現しました。
でも、本線を連続走行するにはコンプレッサーが圧縮空気を作る量が追いつかず空気が切れてしまいます。そこで、牽引している客車3両の後ろからDD16ディーゼル機関車が時速10キロで押して走りました。煙突から出る煙は焚き火で演出し、客車には100体以上の案山子さんが乗っていたとか。
これも国と地元の市町村や鉄道会社、一般のボランティアの皆さんの協力により実現したそう。そのボランティアの中には、私の鉄道仲間も参加していました。とても誇らしい事です。
地域活性化とローカル線の存続をかけて、こうして頑張っている鉄道会社もあります。コロナ禍が収束したら、シーズン関係なくぜひ地方の鉄道を巡ってみてください。撮り鉄でなくてもきっと楽しめるでしょう。
◆桂小梅(かつら・こうめ) 1992年大阪府大阪市に誕生、桂梅団治の長男。2011年4月、桂梅団治に入門。幼いころから父親の落語の手ほどきを受け、小学生のころの好きな有名人は「三代目桂春団治」。鉄道写真愛好家の一面も持つ師匠梅団治の影響からか、落語と同じく幼いころから鉄道写真に興味を持つ。真摯で丁寧な高座は好感度が高く、これからが期待される若手。
▽桂小梅さんのエッセイはこちらでもお読みいただけます
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