タレントの渡辺直美さんの容姿をいじる内容が、人権感覚や時代感覚の点から批判された東京五輪開会式の企画案。この出来事と重ね合わせるように読まれている漫画があります。hara(@hara_atsume)さんがツイッターに投稿した「わたしの小さな抵抗」。職場の年上の男性に体型をからかわれた女性は尊厳を守るため、気持ちをぶつけます。その勇気は「ボディポジティブ」から生まれたものでした。
人の容姿をあざ笑うボディシェイミングやルッキズム(外見至上主義)を問題視する声が高まる一方、「画一的な美の基準にとらわれず、ありのままの自分、ありのままの体を愛そう」と、ボディポジティブと呼ばれるムーブメントが広がっています。渡辺さんは海外ではその象徴的な存在です。
haraさんは小さい頃から絵を描くことが大好きで、作家を夢見ていました。通っていた画塾で、「その女の子、なんでそんなに太っているの?」と自身の絵をたびたび指摘され、キャンバスの中の女の子がぽっちゃりしていたのは、自分の体を参考に描いていたからだと気付きます。自分の体を否定し、自分とは違うボディラインの女の子を描き続けましたが、心と体が悲鳴を上げ、大学卒業後は絵を描くことから離れます。
再びペンを握るようになったのは、2017年にボディポジティブという価値観を知ってからでした。「太っていてもオシャレしていいのだ、自分の身体を好きでいていいのだ」とプラスサイズの女の子たちのイラストや自身の経験を描いたエッセー漫画をSNSで発表。絵の仕事も寄せられているそうです。
4万超のいいねが寄せられた「わたしの小さな抵抗」は、2020年11月にあった出来事を描いたもの。接客・販売業で働く主人公が倉庫にいると、「おい、ドスコイ」の声。振り返ると、にやつく職場の男性が心ない追い打ちを掛けます。「怒った?」。
体型をからかわれ最後に怒ったのは小中学生の頃。それからは、ひっそり泣いたり、コミュニケーションとして自虐したりしていた主人公は、ボディポジティブという価値観に救われ、身体のコンプレックスを少しずつ受け入れられるようになりました。いやなことを言われても笑って流す癖は抜けていないのかなと思っていた矢先、とっさに「サイッテーですね」と返し、男性をたじろがせます。自分を守るため、少し時間はかかったけど、「昔の私」ができていたことが再びできるようになった…そこで漫画は終わります。
「言い返せてたのが自分のことのようにうれしい」「勇気をもらいました」など、似たような経験をしたとみられるユーザーがコメントしています。haraさんに聞きました。
―2020年11月の出来事をこの時期に漫画化したのは。
「これまでツイッターで、『ボディポジティブという考え方を知る前』を中心に、エッセー漫画を描き進めていました。2月に一区切りがつき、『ボディポジティブを知った後』、『知ったおかげでできたこと』をテーマに、今回のことを漫画にしました」
―ちょうどその時期に、東京五輪のあの問題が。
「ニュースを知った時、力が抜けるような、途方に暮れるような気持ちになりました。漫画を投稿することにも少し戸惑いが生まれました。こういうことが起こると、『何かを発信しなくては!』と奮い立つよりも、トラウマがよみがえって言葉が見つからなくなることが多いので…」
―それでも漫画を公開したのは。
「ニュースが報じられた後、『こんなの絶対ダメだよね』『もうこういうのやめようよ』といった声がどんどん大きくなりましたよね。同じような思いを人も少なくないんだと思いました。もう二度と似たようなことが起きませんようにと祈るばかりです」
―漫画の「職場の年上の男性」とは気まずいままでしょうか。
「それが、特に何もなく…数日経つといつも通りの空気に戻りました。向こうが言ったことを覚えているかどうかも定かじゃないです。言葉を投げる側はそんなものなんですよね…」
―昔の幼いharaさんがVサインをしている場面にユーザーが共感していました。
「大人になると、空気を読んで怒らないことを覚えていきますが、怒ることだって自分を守るために必要なことなんですよね。頭で分かっていてもなかなかできないのに、今回たまたまできて、びっくりして泣いて…とドタバタしてしまいました」
―あのシーンに込めた思いは。
「幼いころの頃の私は嫌なことをされたら、難しいこと考えずにできてたよなと。嫌だったから怒ったんじゃん、いいじゃん、それで何が悪いの?って。そう思ってくれたらいいなあと願望も込めつつ描きました」
―リプ欄では、自分自身のことと重ね合わせてこの漫画を読んでいるように思いました。
「『見た目をからかわれるのは嫌』って、きっと誰もがずっと前から嫌だったはずですよね。でも声に出すタイミングがなかったり、同じ考えの人が周りにいるのかどうかも確かめる機会がなかったり。やっぱり嫌だよね、そうだよね、私だけじゃなかったんだなあという気持ちです。短い漫画ですが、そういった思いを持つ人たちをつなぐ何かになれたらうれしいです」
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Haraさんの作品はこちら
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