卒業後3年以内に4割が離職…2040年に向けて求められる医療福祉分野の人材育成

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子

2040年頃には高齢者人口がピークを迎え、医療福祉従事者は就業者の約5人に1人に増加―「令和2年版厚生労働白書」にはこのような推計がなされています。

一方、2019年に厚生労働省が発表した「新規大卒就職者の離職状況」によると、2016年に大学を卒業して「医療、福祉」に就職した人の4割近くが3年以内に離職していました。人間関係や雇用条件の悪さ、自身のイメージと実際の現場との差(リアリティショック)、能力や適性の問題、職場への希薄な帰属意識などが退職に繋がっていると推測されます。

医療福祉分野は患者さんや利用される方々への医療行為や支援のみならず、経験が浅い職員の指導などでも実務経験を必要としますが、新卒の4割近くが3年以内で最初の職場を離れることによる質の低下が危惧されます。2040年は現在大学等に在学中の学生が現場で中核となる時期であり、私たち養成側にとっても見過せない問題です。

一口に医療、福祉といっても職場により労働環境や待遇、業務や職務、リーダーの考え、治療法、対象者などは多種多様です。歯科の場合、病院と診療所では対象になる症状や患者さんの状況が異なることが多く、また病院も「がん」や「骨折」の患者さんを主に診るところもあれば、食べたり話したりする機能を回復するリハビリテーションをメインに行うところもあります。学校で学んだ内容と現場で実際に行われていることに開きがある場合も少なくありません。求人情報だけではなく、実習などを通して現場の状況が多少なりともわかれば学生も職場へのイメージを持ちやすく、職場を選択しやすくなるでしょう。しかし、状況がよくわからないまま入職すると「思っていた仕事と違う」、「やりたい仕事ができない」、「別にこの職場でなくてもいいのではないか」と感じ、退職を決意してしまうのかもしれません。

他方、学生と接していると自分の枠から出たがらない、出ることを怖がっていると感じることがあります。医療福祉分野の学生は国家資格が取得でき、就職も困らないイメージがありますが、人間の弱い部分や辛い部分にも目を向けなければなりません。現場で自分の枠が患者さんや利用者の方々によって結果的に壊されることもあるでしょう。医療福祉の現場に出る上で自身の弱いところや足りないところを素直に認め、自らの枠を壊せる強さやしなやかさをもってほしい。その作業には勇気と覚悟が必要ですが、学生の間にせめてそれらを持つことができるよう、将来の人材を送り出す教育機関の人間として支援したいです。

このように書いてみたものの、医療福祉分野の早期離職問題解決のために考えねばならない課題は多岐にわたり、単純な話でも簡単な話でもありません。しかし、将来の日本の医療、福祉を中心になって動かしていくことが大いに期待されるたくさんの新人が来月一斉に入職することから、来たる2040年に向けて現場と教育機関、また社会がこれまで以上に連携し、できる限りのことを行って医療、福祉を担う人材を共に養成、育成していく必要があると考えています。

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