2月1日に中国で海警局に武器使用を認めた海警法が施行されて以降、尖閣諸島を舞台とした日米VS中の対立が激しくなっている。3月中旬、米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官がアジアを歴訪した中、東京では外務防衛の会談(いわゆる2+2)が開催され、両国は尖閣諸島の有事に備え、同諸島の奪還作戦などで共同訓練を実施していくことで一致した。共同訓練という踏み込んだ立場を表明したことは、中国をより強くけん制する形となった。しかし、中国の尖閣周辺での海洋覇権活動に変化はないだろう。中国は、2016年7月に国際仲裁裁判所が中国の主張する九段線を違法とする判決を出したにもかかわらず、南シナ海で人工島や軍事滑走路の建設など覇権的な行動を続けている。
今後は、日米だけでなくオーストラリアやインドなどとの結束が重要となる。そのための重要な政治的枠組みが日米豪印の4カ国によるクアッドだ。去年10月、東京で4カ国外相によるクアッド会合が開催されたが、当時のポンペオ国務長官が冒頭から中国を名指しで非難するなど、クアッドは反中包囲網的な様相を呈している。クアッドは3月12日にもバイデン大統領が主催する形(各国首脳が参加)で行われ、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて4カ国が協力を強化していくことで一致した。
オーストラリアと中国の関係は、新型コロナウイルスの感染拡大や豪産牛肉の輸入停止、中国国内でのオーストラリア人拘束などにより、悪化している。去年、中国からオーストラリアへの投資額は前年比61%減少の10億豪ドルあまりとなり、投資件数が20件とピークだった2016年の111件から大幅に減少する形となった。
インドも去年の中印国境での衝突もあり警戒を強めている。モディ首相は2月8日、バイデン大統領と電話会談を行い、安倍前首相が提唱したインド太平洋構想や日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」を通じて、地域の平和・繁栄のために協力していくことで一致した。
去年11月にはインドを中心に日本と米国が参加する合同海上軍事演習「マラバール」がベンガル湾で実施されたが、オーストラリアが2007年以来初めて参加した。インドはこれまで中国との経済関係からオーストラリアの演習参加を拒否していたが、これはインドが反中で米国やオーストラリアへ接近を試みている証となるだろう。
さらに、英国やフランス、ドイツといった欧州主要国も中国への不信感を高め、クアッドに接近する姿勢を示している。今年のG7先進国首脳会合(サミット)の議長国である英国は去年12月、韓国・オーストラリア・インドを招待し、計10カ国で会談を行う計画を明らかにし、香港情勢では、英国海外市民(BNO)の資格を持つ香港市民に対して、英市民権獲得の道を開く特別ビザの申請受付を開始した。南太平洋に海外領土を持つフランスもインド太平洋地域にフリゲート艦を展開し、今後はドイツも日本にフリゲート艦を派遣する計画だという。
尖閣問題を意識すると、日米VS中の構図がどうしても浮かんでしまうが、この問題は視野を拡げて多角的に観ることが重要となる。日米だけでなく、オーストラリアやインド、英国なども同じような立場であることから、日本は多国間安全保障を強く意識し、主体的に行動をとっていくことが望まれる。それがバイデン政権が求めていることでもある。